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御盆休みに入り、家にいる時間が増えた。

最初は出掛けたりなどしていたけれど、特にする事もなく家にいるのもどうかと思ったので、私は秋彦さんの家に行く事にした。

京極堂の前に着くと骨休め、と書いてあった。

つい癖で勝手口から入っていいだろう、と私は勝手口へ回った。


「…皆さんお揃いで」


見事な程に面子が揃っていた。

何か約束でもしたのだろうか。

否、それは流石にないか。


「何を考えているのか知った事ではないが勝手に来たんだよ」


僕が呼んだ訳ではない、と秋彦さんが息を吐くように言った。

その言葉にむっとしたのは関口先生だけで、榎さんは石榴と遊んでいる。


「まあ入り賜えよ」


お邪魔します、と靴を脱いで上がった。

僕達にはそんな事言ってくれなかったのにね、と榎さん。

関口先生は今にも寝そうな勢いだ。

パタン、と秋彦さんが本をたたむ。


「あれ、木場さんは?」
「僕の弟子と映画を観に行ったよ。何でも時代物だとか」


にゃー、と石榴は間抜けな声を上げた。

何で知ってるんだろう…ああ、彼女は榎さんの所で働いているんだった。


「お似合いですねえ」
「お似合いなのは良いが僕にまで木場修の話をするんだ!いい迷惑だ!」
「まあまあ榎さん…」


関口先生が静めるように言った。

確かに彼女はそれを惚気だと気がついていない。

そこが彼女の可愛いところだ。


「霖はどうなんだ?」
「え、何がですか?」
「男だ男!気になる男はいないのかッ」
「(怒られているみたいだ…)」


私は男と言われてもなあ、と独り言のように言った。

今まで男性と付き合った事なんてあったとしても半分記憶にない。

顔も思い出せない程だ。

可笑しいなと自分で少し笑った。


「何だ?いるのか!」
「ちょ、榎さん」


何か不味い事でも起きるという顔をした関口先生が又もや止めにかかる。

秋彦さんを尻目にかけると三千世界が滅んでしまったかのような悪相だった。

…どうしたんだこの人達は。


「霖も三十路だ。男の一人や二人いるだろう」


秋彦さんが言った。

…何か、この人を怒らせるような事しただろうか。

目が笑っていない。

私は焦って何も言えなかった。


「おい、二人だって?二人は少ないだ」


ろう、は顔面蒼白の関口先生の手によって遮られた。

これってこの世の終わりって事じゃあ、と思って秋彦さんを見ると宇宙の終わりが三回続けて訪れたかのような凶悪な顔だった。

関口先生もっと早くに遮ってくださいよ…。


「霖、よく聞くといい。世の中は変な輩ばかりだ。否、世界の半分…否、男という生き物はだね、」


秋彦さんが大層真剣な眼差しでそう切り出すと、次は榎さんが秋彦さんを本の山に突き飛ばした。

一気に関口先生と私はサァアと血の気が引いた。


「京極!僕は神だ!僕を貶すのは良くないぞ!」
「「(何だこの人は)」」


神に性別は関係ないだろう、と一人で突っ込みを入れた。

秋彦さんは頭を打ったのか、低く唸っていた。

髪の毛は乱れ、顔がよく見えない。


「「(怒らせてしまった…!)」」


突き飛ばした本人と関口先生はいつでも逃げ出せるように構えている。

このままでは命を持ってかれて仕舞う!と二人の心の叫びを視線で感じた私は酷く、蚊が鳴くようなぎこちない声でこう言った。


「でっ、でも秋彦さんみたいな男の人、そういないし、」


秋彦さんが頭を摩っていた手を止めた。

二人はそれでは全然駄目だ!と言わんばかりの顔で私と秋彦さんを交互に見ている。


「わ、私はいいと思いま、す」


何が言いたかったんだ自分!

その言葉に二人はバッと秋彦さんを見て、私はワァアと目を泳がせた。


「…そうか」


その場の空気が一瞬で和んだ。

秋彦さんは私の言った言葉の何処かで機嫌を直した様子でその場に座り直した。

しかも少し口の端が上がっていたからその後私達は余りよく喋れなかった。

ただずっと秋彦さんは機嫌が良かった。


15 August 2013.
Masse


この二人はくっついてもこのままだと思う.
関口先生は前々から想いを寄せている事をわかってた感じです.
百器徒然袋 雨は凄くうけました.

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