多重性人工的焦点


瞳を閉じている間、世界はほんとうにそこにあるのだろうか。
誰でも一度は考えるであろうその不可思議を、私はいまだに捨てきれずにいる。
すべてを見てまわることは叶わないだろうから、この目に映るものが現実のすべて。
でも、ひとの数だけ視界が、視野が、視点がある。
はじめて眼鏡をかけた瞬間の違和感が、時おりふっとよみがえる。
見えすぎて気持ちが悪い。
不安に駆られた呟きは端的に覆された。
これまでが見えていなさすぎたんですよ。
けれど、視線で輪郭をくっきりとなぞれるようになったのは、ものごとの表面だけ。
なのに、中身を見つめようとどれだけ瞠ってみても、たった一枚のガラスがあるかないかなんて無関係。向きあうのは大抵が暗闇だ。
ただ、私たちは光を、あまりにも善になぞらえ過ぎている。
心地よい夜の眠りに落ちるあのとき、地球の裏側の空は何色?
強烈なまぶしさで眼が焦がれるのは何故?
涙や、瞑想や、祈り、孤独は、どんな場を欲しがる?
いま見えないものに思いを巡らせたくて、見えているものの中から選びとろうとして、想像力や知性があるのだ。
世界はほんとうにそこにいてくれるだろうか。
開いているのに探そうとしない、かげりもしない瞳のまえに。


160203 2153


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