まず、そもそも指輪が抜けない。前述の執着とはつまり、ちゃんと痩せるんだからサイズ直しなんてしないもん、という根拠のない頑なさそのものであったのだ。
よって私の想定では、何より最初にこの指輪の封印をペンチなどで解いてもらうこと、それがすべてのはじまりとなるはずであった。
ここで最初の驚愕が走った。店員さんが仰るには、最近では指輪を宝飾店でちょんぎってくれないとか。消防署に出向いて特殊な用具での破壊をお願いしなければならないそうだ。
ほんの一瞬、呆然とした醜態を晒してしまったのであろう。店員さんが、とりあえず自力でがんばってみましょうか?と提案してくださり、ベビーオイルの威力に目を見張りつつ奮闘すること20分。
奇跡が起きた。
否、店員さんの匠の技でなければ何だと言うのか。
指輪のない自分の手を何年かぶりに拝んだ。
「数年の間に指輪をはずすタイミングはなかったんですか?」「やせるつもりでいたので……」
「関節が一番の難所なんですよね。血管を締めつけるので血がたまって邪魔をするんです」「血めえええ」
などといった作業中の店員さんとの会話ももはや懐かしい。何と清々しいことか。生まれ変わったかのようだ。
しかし悲劇が生じた。
指輪の素材をよく調べて頂いたところ、このお店ではお直しの対象外ということが判明。8金とは……18金だとばかり。これが消防署情報に次ぐ衝撃であった。贈り物なので知らなかったなどと弁解にもなりはしない。
当然お代は発生しないと言い張る店員さんと、ここまでして頂いて何もお礼が出来ないなんてあまりの非礼と情けなさで泣きそうになる私。
仕方なくひたすら感謝と謝罪の繰り返し及び平身低頭の姿勢のままお店を後にした。が、やはり気が静まらず、付近で菓子折りを調達し踵を返した。
「つまらないものですが」などという定型文しか出てこない自分が恥ずかしい。実際に大したものではないので仕方がない。
伝統的な作法に則り、そんなことをなさってはいけません!どうかお納めください!この様なお気遣いをして頂いく訳には!そう仰らず!などの応酬の末、申し訳なさそうに受け取って頂けた。
「チロルチョコくらいのことしかしておりませんのに……」
との店員さんのお言葉が可愛らしかった。次回、同じようなことが万一あったらチロルチョコを箱でお渡ししようと思う。
私の太い指と自己満足に、最後まで丁寧に付き合って下さった優しくて美人の店員さん、本当にありがとうございました。
ちなみにこの指輪のサイズは9号だそうな。ピンキーリングとしてはぴったり。
薬指の、圧迫されて無理やりくびれさせられた跡はしばらく残るだろうとのこと。
また、サイズ直しは冬の方が良いとのことなので、それまでできるだけのことをします。やせます。運動をします。リンパマッサージを日課にします。塩分を控えます。秋から。たぶん。

150827 2234
一言


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