孫と大天狗 1/3




田沼の手を引っ張って八ツ原を駆け回った
まさか強い妖怪に見つかるとは思わなかったから驚いた
狙いはやはり友人帳らしい
こういう時に限って先生は居ないんだから…困ったもんだよな…

そういえばなぜ田沼も一緒に逃げてるかというと
妖怪の質が悪くて田沼を人質にしようとしたんだ
毒気に当てられやすい田沼は自力で逃げられるわけがない
と言ってそのまま放置すると人質にされる
自分の頭に浮かんだ最善の策がこれしか浮かばない己を呪いながら走る
すると考え事をしていたのが仇となったのか俺はものに躓き転んだ
転んだ瞬間に田沼の手を離したので田沼は膝を付けるだけで済んだみたいだ
ただ田沼は頭痛がきているらしく
「夏目っ!!!」
と俺の名前を呼んで俺を起こそうと近寄るが頭を抱えて痛そうな顔をする
俺はなんとか体を横に起こして田沼を見る
すると妖怪はもうすぐそこまで迫っていて俺と田沼に飛びつこうと跳ね上がる
俺は無我夢中で腕を交差にしてガードの形をとった
が、直ぐにくるはずの衝撃が来なかった
不審に思いながら恐る恐る顔を上げると田沼がいた
――ただ俺の知ってる田沼じゃなかった
目の前にいる田沼は山伏の服を着ていて、頭の右側には天狗の面のような物を着けている
髪は緋色の紐で括ってあり、手には葉団扇が俺を庇うかのように握られていた
その姿は少し似て非なるところはあるが天狗の様だった

「―友人帳が目当て良しいな、悪鬼蜘蛛」

田沼に似た天狗(多分田沼なんだろうが)はそう妖怪に問う
悪鬼蜘蛛と呼ばれた妖怪は恐れを抱いた声で田沼に似た天狗に対し
「貴様は大天狗かっ!!!」
と叫んだ
田沼に似た天狗は笑みを浮かべると
「あぁ。その通りさ。」
と肯定した
そして続けるように
「だからあんたが俺の友の宝物を奪おうと言うなら容赦はしないぞ」
と葉団扇を俺からみて水平にすると言った
目つきは見えてなかったが多分睨んでたと思う
恐れを成した悪鬼蜘蛛は田沼に似た天狗の力量を知ってかそそくさと逃げていった
天狗はそれを見送るとため息を吐き、俺の方を向く
そして一言
「ここから離れてから話すよ」
と微笑み言った
俺がこくりと頷くと彼は「悪い」と言って俺を抱きかかえ羽を羽ばたかせ空を舞った





しばらくすると彼は降下を始めた
そして俺を地に立たせると腕に巻き付けていた赤い数珠を取った
すると天狗だった姿から田沼の姿に戻った
田沼は息を荒くしながら地べたに倒れるように座った

俺は座らずにただ田沼を見ていた

田沼は息が整うと一言目に
「覚醒めたのは昨夜なんだ」
と言った
それまでは妖怪に当てられやすい只の人間だったと彼は言った





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