「どれか聞きたいのあるか?歌ってやるよ」



ふと足を止めた
耳を済ますと透き通るような歌声が微かに聞こえた
誰か歌っているのだろうか?
好奇心に身を任せて歌声へと歩みを進めた


屋上までたどり着いたときには歌声ではなくハーモニカの音に変わっていた
先程とは違う曲調だ
音を視線でたどると茶色の毛が肩まで伸びている男の人がいた
その髪は櫛が詰まると言うことを知らないだろうと思いこむほどにサラサラと風をなびかせていた
以前帝人先輩と親しげに会話をしていた様な気がする
もっと言えばダラーズの一人ではなかっただろうか
名前は覚えていないが確か一般じみた名前だった気がする…
確か…名前に……

「誰?」

不意に聞かれて体を跳ね上げた
気配に気づかれていた?
俺は恐る恐ると言うように彼に近づいた
前髪が二束左目にかかっているだけで他の前髪は横に流している
特にこれといった特徴がなく、帝人先輩の友達で納得のいくような容姿だ

「確か、最近竜ヶ峰とよくいる奴だよな?」

ハーモニカから口を外すと俺をみるように顔上げた
目は眠たげに開いているが瞳に光が入って入るため覚醒しているのがわかる
本当に特徴がない人だ。

「黒沼青葉って言います」

いつものように印象の良い笑顔を浮かべる
第一印象だけは良くしないとね

「無理に笑顔作んなくて良いよ」

彼はそういうとまた眼差しを楽譜へと向けた
その光景を見て先程歌っていた人がこの人だと確信する
ついでに言うなれば元より好印象を持っていないようだ

「えっとぉ…なんで無理に作ってるように見えるんですか?」

疑問を聞いてみる
何故バレた?

「昔作り笑いの見分け方を親の友人に教わった事があってね。見分けられんだよ」

楽譜に何かを付け足しながらそう答えた
変な人がいたものだ
セルティさんや折原臨也じゃあるまいし
眉を潜めながらも開いてる彼の隣へと座る
近くに置いてあったファイルを取って何気なく見てみると五線譜がかかれている紙にたくさん文字やら音符やら記号がかかれている
急に白から肌色と青が視界の中に入った
何があったか気付いたのと同時に耳に不機嫌そうな声が聞こえた

「何勝手に見てんだよ」

「たくさん作ってるんですね」

そう微笑むと「まぁな」と呟いて紙をファイルに入れた
そのあと俺にファイルを渡すと

「どれか聞きたいのあるか?歌ってやるよ」

と言った
俺はありがたく受け取ると歌詞を見ながら選んだ
最後にあった曲は作成中のようで音譜が途中で切れていた
ただ歌詞の字が先ほどの前の歌詞との字が異なっていた
誰かに頼まれたものだと理解し、少しだけ歌詞を読んだ
それだけで“紀田正臣”が頼んだと理解した
俺はページを前にめくった
そして悲恋ものだとわかる曲を選んだ
彼の声にはこの曲があうのではないだろうか
テンポ的にバラードみたいだったし
彼は一瞬驚いて

「失敗作なんだよ」

と言って俺からファイルを取るとアカペラだがハーモニーに乗せて言葉を奏でた
その歌は1人の男が好きだった女を殺されてしまったという曲
視点は少年を慕う部下からである
その歌はまるでその場にいたような歌詞であったため彼自身かと疑ったくらいだった
背景の年代が昔すぎて有り得ないのだが。
歌い終わると同時にチャイムが鳴った
なんてタイミングのいい時計だ
彼はファイルを閉じ、筆入れに使用した筆記用具を入れるとファイルの上に乗せ、ハーモニカを内ポケットへ入れて立ち上がった

「じゃあな、黒沼。」

先程メロディーを口ずさんだ口で彼はそう言って立ち去った
耳から離れない綺麗なハーモニー
壊す時にはどんな声かなと想いを馳せる
早く壊してみたい
あのハーモニーを…







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