暴君の無貌の騎士



目の端に一瞬だけ鮮やかな緑が映った。
その緑だけが鮮やかで後はモノクロセピアに色付く
不思議に思うも迷いは要らなかった。
彼を追わなくてはならない
彼女はその意志に従い軽やかに後ろへ振り返り、人混みを掻き分けて走り出した
段々近付いていく緑の背中に必死に手を伸ばした
届け、届け
そう心のなかで叫んだ
あ。と思った時は遅く履き慣れてないヒールに足を取られバランスを崩す
後少しだったのに!!と地面に倒れそうにながら彼女は思った
段々近づく灰色のコンクリートに目を瞑る
暫くすれば来るであろう衝撃に覚悟を決める

「あんた大丈夫か?」
手を掴まれた感触と安否を伺う甘い声
来るはずの衝撃は膝に激しく駆け抜けた
ただ上半身にくる筈だった衝撃は皆無に等しく、体を膝を付け腰を持ち上げて座っている状態だった握られた腕を目で辿ると緑の時計を付けた手が映った
そのまま顔を上げ、手の持ち主を確認する
安堵した甘いマスクが瞳に映る
「あ…ちゃ…」
微かに喉から漏れた声に涙が浮かんだ
会いたかったと告げたい逢えて良かったと告げたいそなたは誠にアーチャーかと問いたい
色んな感情が溢れかえり痛み出す膝など気にもせずに彼に抱き付いた
急に抱きつかれて驚いた彼はバランスを崩し、彼女を受け止めながら尻餅をついた
そして泣き喚く赤い赤い我が儘な暴君だった姫の体に手を回して囁いた

「またつまらない騎士が欲しくなったのかよ?お姫様。」



―――それは5月初めの出逢い<再会>



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