4-3




「ランサーのマスター、僕と交渉しないかい。」
目の前の黒いコートを羽織った男はそう言った。
―――――愛銃を構えながら。



ケイネスがアインツベルンの城に着くと扉の前に一人の男が立っているのが見えた。
道中で礼装の一つである『月霊髄液<ヴォールメン・ハイドラグラム>』を起動しておいて良かったと思いながら立ち止まった。
黒い髪を持ち、無精髭を生やしたこの男こそがセイバーの真なるマスターで、アインツベルンのホムンクルスである、あの女性の旦那なのであろう。
そしてもう一つ付け足すとすれば『魔術師殺し』とまで名を馳せた暗殺者なのだろう。
「――待っていたよ。ランサーのマスター」
男はそう言った。
ケイネスは言葉を紡ぐことなく、黒い男を見つめていた。
言葉を交わしてはいけない。そう思ったからである。
「・・・・・・言葉を交わすつもりはないようだね。
・・・・まぁそれが普通か。」
男は残念そうに呟くと腰から銃を一丁取り出し、ケイネスに突きつけた
「時間が惜しい。早く決めて貰おうか。
YesかNoで答えてくれ・・・・いや答えろ。ランサーのマスター」
男はスッと目を細めながらそう言った。
ケイネスは焦ることなく静かに相手の言葉を待った。
死に急いでるわけではない。死ぬ気もない。
彼はただ自分に自信があるのだ。
銃弾を避けられると。
「ランサーのマスター、僕と手を組まないかい?」
男は銃を向けたままそう問うた

ここで手を組まないと言えば射殺されることは確かだろう。
ケイネス自身は避けられるからいいものの、この場に彼しか居ないと言うことはもしかしたらあのホムンクルスがソラウの元に居るのかもしれないと考えられる。
マイクか何かでつながっていてケイネスの答えによってソラウを殺すことが可能というわけだ。
ソラウを信じていないわけではないが、もしの状態が起きたらヤバイ。
そしてもう一つヤバイのはランサーの存在である。
ランサーはセイバーと(多分共闘して)キャスターを討伐している。
もしケイネスの返答によって男が令呪を使用したら?さすがのランサーも危うい。
手を組むとしても捨て駒にされるだけだろう。そんなことはわかりきっている。
だがこの事を考えると此処は手を組んだ方が良いのかもしれない。
だがこの外道な男だ。何をしでかすか分からないだろう。
「・・・・・・仕方ない乗ってやろう。だが条件を付けて貰う。」
ケイネスは静かに言葉を発した。
このままでは自分のみが損する。ソレは流石に控えたい。
そっと人差し指のみをあげ、告げる。
「一つは私の婚約者に手を出さないこと。私も貴様の妻に手を出すようなことはしないと誓おう。貴様も所帯持ちなら分かるのではないか?妻の大切さを。」
男は少し驚いた様に目を見開いたが、その条件を飲み込んだ
ケイネスはソレを見届けると中指を増やした
「二つ、お互い令呪を使用し、お互いのサーヴァントと殺し合わないと命じる。」
一番の安全牌を条件に加える。
令呪の命令は絶対である。だからこそお互いのサーヴァントと殺し合わないことを命じればランサーとセイバーは殺し合わなくなる。
最後にこの二人が残ったらどうなるかは知らないが、こうすれば安全と言われれば安全だ。主にランサーの身が。
男は渋々ながら右手の令呪を取り出すと命令を呟いた。
「令呪をもって命ずる。これよりランサーとの殺し合いを禁ずる。」
男の右手に刻まれていた令呪の一辺が滲みはじめ、使えなくなったことを見届ける。
そうしてからケイネスも令呪を使用した。セイバーとの殺し合いを禁ずる、と。
男はソレを見届けると口を開いて言った。
「条件はそれだけかい?」
ケイネスは首を横に振った
まだ何かあるのかと眉間に皺を寄せる男に最後の一つの条件を口にする
「貴様の願いを聞かせろ。」
願いらしい願いがないケイネスだが、男が此処まで聖杯を欲するのが気になっていた。
もしかしたら男は願いを所有しているのではないだろうか。

男は困ったように首をかくと持っていた武具を全て落とし、ケイネスに近づいた。
そして耳元で内緒話をするように言った。



「・・・・僕の願いは戦いの根絶、恒久的な平和の実現さ。」



この男の優しさが垣間見えた気がする。








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