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ランサーの位を得た女性は夜の街を駆け抜けた
夜の空を思わせる癖の付いた髪を靡かせて、夜の寒い風を肌で感じながら彼女は街を駆け抜けた。
向かうはアインツベルンの城。
人里離れた森林の中にあるらしい。
おのがマスターの婚約者であるソラウに頼み込めば凄く嬉しそうに使い魔を放ち、道案内をさせた。
町中では怪しまれるので彼女は緑のYシャツと黒のスーツを身に纏った状態で動いていた。
何かあれば魔力で服を買えることが可能なので問題はない。
それに普段の服と同じくらいに動きやすいことから彼女はそれを身につけることが多くなった。
それについてソラウは凄く残念そうにしていたのだが彼女は知らない。
森に近づくに連れ同じサーヴァントの気配を感じる。
多分キャスターの地位を得た「ジル・ド・レェ伯」とセイバーの地位を得た男の娘「アーサー・ペンドラゴン」のものだろうと仮定する
他にも小さな子供の気配を数個感じたのだがどこか魔力が混ざってる気がしたのでキャスターが召喚したのだろうと彼女は思うことにした
今回彼女が主であるケイネスから承った命令は「キャスターの倒せ」と言うもののみ。
ソレを考えるとセイバーと共闘するのが一番妥当だろうと彼女は二人の気配へ向けて森を駆ける
彼の勘違いなのだが妻である「カトリーヌ」と想い人である「ジャンヌ」に倒されるというのはどういう気持ちなんだろうか
彼女はそう思って立ち止まる
自分だったらどうだろうと彼女は思考を働かせた
―――もし昔の妻グラニアと今の主であるケイネスに倒されるとしたら――――
彼女は自分の身体を抱きしめた
ソレは凄く悲しいと。
だが彼女は瞳から流れる涙をこぼす前に彼女はスーツの袖で涙をぬぐった
ソレは仕方ない事だと彼女はその感情を打ち消した
これは戦争。殺しあいが定められている。
相手が昔愛した女性だろうと今尊敬する男性であろうと殺さねばならない。
彼女はそう理論づけて止まった足をまた動き始める

二人の気配が近づいたとき彼女は服を魔力で作った鎧に変えた
やっと二人の姿が見えた。と思った途端セイバーはキャスターの使い魔と思われる醜い触手の怪物の群れに埋もれ姿が見えなくなりかけていた
これはヤバイと彼女は自分の得物を握ると稲妻の様な軌跡を描いて触手の怪物の群れをなぎ倒した。
そしてセイバーの前に足を付けると彼女はふっと凛々しく美しい笑みを浮かべてセイバーを振り返った
「無様だぞセイバー。もっと魅せる剣でなければ騎士王の名が泣くではないか」
彼女はそう言いながら艶やかなウィンクをセイバーに投げかけた
セイバーは呆気にとられながらも鼻血を流しながら
「ランサー、どうして・・・・・あとウィンクは反則です。」
と言った。セイバーも十分驚いていたがソレより驚いたのはキャスターの方だった
「カ、カトリーヌ!!!どうして此処にいるのだ!!」
キャスターは相当驚いたのかいつも以上に目を大きく見開きながらそう言った
それ以上目を開けすぎると目ん玉落ちるぞ。いや落ちろ。と凄く酷いことをセイバーは思った。
彼女はキャスターを見据えながら左手に構える短槍の切っ先を相手に突きつけた
「キャスター、悪いが、そこなセイバーの首級(しるし)は我が槍の勲。横合いからかっ攫おうなどとは、戦場の礼を弁えぬ盗人の所行だぞ。」
ランサーは腹の底からハスキーな声を出した
キャスターは悲しそうに顔をゆがめた
妻が旦那の想い人を殺すと言っているのだ。例え悪魔と称された彼でもソレは悲しいことだったのだろう。
「神はなんと非道か。」彼はそう嘆いた。
そして彼女は悪いが、と呟き彼女流の二槍の構えを取りセイバーを庇うように前に出た
「キャスター、別に俺は貴様の恋路にまで口出しはせんよ。
是が非でもセイバーを屈服させて奪いたいというのなら、やってみるが良いさ。
ただしこのディルムッドを差し置いて“片腕のみのセイバー”を討ち果たすことだけは断じて許さぬ。
なおも貴様が退かぬとあらば、これより先は我が槍がセイバーの“左手”に成り代わる」
ランサーは潤しい唇でそう言葉を紡いだ
その瞬間誰もがランサーが女性であると言うことを忘れた
それほどに彼女は凛々しく勇ましく男らしく見えたのだ
そしてセイバーは理解した。なぜ彼女のような美しい女性がフィオナ騎士団で平然といられたのか。
彼女が強いからだけではない。彼女がこんなにも男より男らしかったから。
だからフィン・マックールは彼女を気に入ったのだ。
セイバーはフッと微笑み右手で剣を構える。
事故でゲイ・ボウで切られた左手首
治癒の効かないソレを持ち主であるランサーでさえ治し方を知らない。
「悪いが治したいなら俺を倒すかこれを戦って折ってくれ」
彼女は申し訳なさそうに言ったのだがセイバー自身の不注意もあったので仕方ない。
ソレより貸してと言って貸しちゃうランサーもランサーであるのだが、その天然さが彼女の可愛いところであるのでセイバーは許し、その提案を承諾した。ソレで良いのか騎士王。
「ランサー、貴方は・・・」
「勘違いするなよ、セイバー」
言いさしたセイバーに彼女は釘を刺した。
「今日、俺がマスターに仰せつかったのは一つだけ、キャスターを倒せという命令のみ。お前をどうこうしろという指示は受けていない。ならばここは共闘が最善と判断するが、どうだ?」
彼女のその言い分に小さい穴があった。
彼女がもし、キャスターを倒すと言うだけだったらセイバーに意識が言っているキャスターの背後をゲイ・ジャルグで一刺しすれば良かったのだ。
何故彼女がソレをせず、セイバーを助けようとしたか。
前回叶わなかった共闘をしたいが為かそれとも・・・・
セイバーは自分にとって良い方に解釈して剣を大きく右に構えた。
左はランサーが守ると言うことを信じて。
「断っておくが―――ランサー、私なら左手一本であの雑魚どもを百は潰すぞ?」
「フフッ、その程度なら造作もない。今日のお前は左利きになったつもりでいるがいい」
互いに楽しそうに軽口を交わしつつ、怪異達の壁へと突進した。
セイバーは左手を庇いながらも見えない剣を“左手”に当たらないように振り、怪異をなぎ倒す。
ランサーは相変わらずの二槍を振り回しセイバーの左側を守りながら怪異の群れの中を舞った
生前の妻と想い人のその行為に涙を呑み込みながらキャスターは吠えた。
「神はどこまで卑劣であるか・・・・!」
ランサーは視界の端でその光景を映し、「すまない」と申し訳なさそうに小さく呟いた。






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