"翔"について

基本虎太視点


「―――・・・二重人格って知ってる?」
手当を受けていると手当をしている相手は急にそう言いだした。
なんだよ急に。そう言えば奴は横に首を振って「何でもない」と応えた。
何でもないはずがない。此奴の場合何でもない時はそんなことを呟くはずがないのだ。
嘘吐け。なんだよ、オレじゃ頼りないのかと言えばまた奴は首を横に振ってそんなんじゃないと言った。
「ただ、勝手に言って良いのか不安なんだ。」
内村はそう言いながら翔の妹の寝ている寝台に顔ごと目を向けた。
「―――虎太君は口堅いから言うけど、本当はこれ、翔君本人にも言ってないんだ」
内村は意を決したようにそう言った。
ちょうど手当が終わったらしく内村は俺の患部から手を離すと使われてない包帯を巻き直した。
そうしながら内村は続けた。
「翔君は後天性二重人格なんだ。」
それは衝撃的な事実だった。
凰壮と竜持とのテレパシーを切って置いて良かったと思った。
そして内村がそう言ったのと同時に翔の妹が寝ているはずのベッドで物音がした。
もしかして聞こえているんじゃないのかという疑問が浮かんだが、内村がそのまま話を続ける様子を見て寝返りだろうと勝手に自己解決して意識を完全に内村の話に向けた。
内村がその事に気づき始めたのは半年前くらいにやった健康診断の時だ。
完全に診たのは杏子さんだったが手伝いとして内村が居たのを覚えている。
その時に杏子さんが翔のを診察した時に顔を真っ青にさせたらしい。
それでも大丈夫だと言ったので別段命に関わる問題ではなかったのだろうと勝手に思い込んでそのままにしたらしい。
その後の翔の動きに違和感を感じ、内村はおやと思ったらしい。
決定づけたのはこの前の翔の妹を救出させた時だ。
運が良いのか悪いのか内村は翔と一緒の行動でその現場に落ち合っていた。
―――翔の暴走現場だ。
その時の戦いで翔は完璧に暴走した。
妹が抑止力となったらしくあまり大事にならないうちに済んだがけが人は多数、死者は相手の研究員殆どだった。
勿論けが人の中には内村も含まれており、内村はその時重症を負ったのだ。
それでも何とか自己回復させて自分の肉体を保たせていたが正直見るに堪えない姿をしていた。詳しくは割愛しておく。
その時決定づけたのは妹の存在と妹の発言だった。
妹が"お兄ちゃん"と言っても翔は反応しなかったのだ。
内村曰くまるで自分は"お兄ちゃん"ではないと言うようだったらしい。
だが、妹がキレて"ツバサ"と名前を呼んだ時まるで別人かのように"ヤツ"は我に返ったらしい。
そして"ツバサ"と呼ばれたそれは周りを見ることもなく妹だけを抱き締めて「良かった。紗、無事だったんだね」と言うと意識を失ったのだという。
そして気が付いた翔はその事を覚えてさえ居らず、妹の存在も認知していなかった。
そこで内村は自分を治療しに来てくれた杏子さんに健康診断の事を聞いたらしい
もしかして、翔の中にもう一人いたのではないか、と
答えはイエスだった。
もう一つの意識は翔を守っているわけではなく、寧ろその二つは反発し合っているのだという。
そこで内村は勝手に一つの推測を立てたのだ
ツバサというのが翔の本名で、被験体の際に翔という人格が生まれてしまったのではないかというのだ。
その為翔は妹をしらず、自分が翔であると言う風に思っており、本当の人格であるツバサは妹を大切にしていた頃の彼なのではないかというものだ。
それはあくまでも推測なので真実とは言い切れないが十中八九そうなのだろうと思う。
話が終わると俺はこの事を内緒にすると言ってその場を離れた。
これは自分の中に隠しておこう。そう決めて


「―――酷な話を聞かせちゃってごめんね」
そう言いながらそのお兄さんは白いカーテンを開いた。
別に大丈夫だというのは嘘だとしてもそちらの方が自分的に納得できた。
"お兄ちゃん"であってお兄ちゃんではない人があの日自分を殺そうとしたのだ。
私は先程お話しをしていたお兄さんの目を見詰めると一つ問いかけた。
答えによっては私の人生が変わる質問である。

「―――私にもお手伝いできることはないですか?」




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