3-6 ランサーは左手を頭に添えると頭を抱えた。 征服王 イスカンダル――――聖杯から手に入れた知識に入っている。 他者を省みない暴君ではありながら、その欲望が結果的に民を幸せにしたという奔放な王――それが聖杯から得た彼の知識。 そんな偉大な王がこんなにも馬鹿々々しいとは彼女は思わなかった ―――多分先ほどまで相対していたセイバーや主もそう思っているだろう。 しかもそんな王様は多分彼のマスターであろう幼さが残る青年に掴みかかられ無慈悲にも彼を一発の“デコピン”で鎮めた。 うるさい蝿がいたというように別段彼はそのマスターを気にする様子も見せずにランサーとセイバーを交互に見て言った。 「噛み砕いて言うぞ。 ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?さすれば余は貴様らを朋友としで遇し、世界を征する快悦を共に分かち合う所存である。」 ――つまり、今の主を見捨て、主の願いを踏みにじりライダーに従えということだろう。 彼女はそう理解した だが彼女はそんなことをする気など毛頭ない。 彼女の槍は、命は主であるケイネスに捧げている 彼女の願いは前世では出来なかった“主への、王への忠誠” そして彼女の中の“今の”王、主は ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのみである 征服王の軍門に降るということは彼女はその二つを踏みにじらなければならない つまり彼女にとっての“生き甲斐”を“存在理由”を殺さなければならないと言うことだ。 もしケイネスが彼の軍門に降るなら従うだろう。 だが彼女はケイネスを見放してまで彼の軍門に降るつもりはない その堂々とした態度、嫌いなわけではないのだが・・・・・・ 「先に名乗った心意気には、感服しないわけでもないが、その提案は承れない」 彼女は声に力を入れた。 ケイネスに「私は貴方に忠誠を誓う」という思いを乗せて 征服王に「貴方の軍には降らない」という思いを乗せて・・・ 「貴方が名乗ったなら私も名乗らなければならない。 我が名はディルムッド・オディナ。 フィオナ騎士団の戦士。今は我が主に忠誠を誓う者。 そもそもそれだけのために私とセイバーの勝負を邪魔だてしたというのならばそれは騎士として許し難い侮辱だ。戯れが過ぎるぞ。征服王」 そう告げられた征服王は眉間に眉をひそめ「困ったな」という表情をしていた フィオナの騎士のディルムッド・オディナと言われたら“輝く貌”のディルムッドなのだろう。彼の知識にもきちんと聖杯から受けた知識がある。 そんな戦士が女性というのにはさすがに征服王イスカンダルも驚いた。がそれよりそんな強者を己が軍勢に入れられないのが悔しかったらしい そして彼女の発言に便乗するようにドレスを身に纏った女装の剣士も否の意を答えながらもっともな理由を告げた 「私も一人の王としてブリテン国を預かる身だ。いかな(馬鹿な)大王といえども、臣下に降るわけにはいかない。それにアイリスフィールを残してなんかいけるか暴君。」 所々要らんところがあった気がするがブリテンの王と名乗った地点でランサーとライダーは彼の正体を知った。 ブリテンの王といわれれば多分騎士王―――アーサー・ペンドラゴンなのだろう なぜ女装しているのかは知らないが、ニホンに昔とても勇ましい男子に育って欲しいからと女装させるという風習があったと聞いた。多分それと一緒なんだろうとランサーは己を納得させた 「驚いたな、“輝く貌”の戦士と騎士王がこんな美しい女性と幼い少女であったとは。」 征服王イスカンダルは自分の思ったことをそのまま告げた。 勿体ないなぁなどと思いながらも仕方ないかと交渉決裂を味わった 「美しいと褒め頂きありがたいが征服王、騎士王はこの様な姿をしているが男性だ。いささか失礼だと思うぞ。」 ランサーはライダーの言葉に非があるので訂正を促した 大男はそれを聞くと大層驚いたように 「なんと!!それはすまなかった、騎士王。・・・・がなぜそのような姿をしているのだ?」 と謝罪の言葉を告げ、その後に疑問を唱えた それは確かにランサー自身も知りたかったが効いては悪いと思い黙っていたのだが、征服王、どこまでも自分を通し抜く男だ。淡々と聞いてしまった。 そんなライダーに対し騎士王ことセイバーは「ああ、」と言ってからこう告げた 「姉の趣味でこのままなのだ。」 ―――どうやらこの騎士王は己がマスターと同じ時間を操る力を持っているらしい。 ケイネスは本心でそう思った。 デコピンで撃沈した自分の生徒に気づいて後でソラウの惚気という課題授業を受け持とうとしていたがもうそのことは頭の中からさっぱり消え失せていた。 |