3-4 ケイネスはランサーの元にたどり着いたとき言葉を失った ランサーの頬に手を添え愛おしそうに見つめるサーヴァントを視認して。 見る限りサーヴァントの方は女のようだ。 まさかのランサーのチャームがサーヴァントに効くとは思いにもよらなかった 良いことなのだろうか。いや、ケイネス的にはあまりよろしくないことである。 こう逆上せているサーヴァントを倒すというのは彼の認識内では外道の行為だ。 魔術師ながら彼は正々堂々な戦いを望んでいる だから彼はこの状況に困惑していた これでは戦闘が開始できないと・・・・ ランサーは後ろへ跳躍した セイバーとの距離をとるための行動である もしセイバーが自分のチャームに魅了されてしまっているなら・・・・ 逆上せている相手を討つことは彼女の騎士道に反している。 主の判断を待たねばと彼女は思った。 するとセイバーは我に返ったのか「すまない」と呟き、ランサー同様魔力を高めて正装を身に纏った 青と白を基調にしたドレス。その上に鎧が身についている この騎士王を誰が男だとわかるのだろうか。 どっからどう見ても女性である。 「貴方のような美しい方と剣を交えることが出来るとは、聖杯も捨てたものではない。が、貴方とは戦場以外で相まみえたかった」 セイバーはテノールより高い声でそう告げた 本心なので問題はない。 彼の宝具の一つである「風王結界<インビジブル・エア>」を纏い姿を隠した「約束された勝利の剣<エクスカリバー>」を構えながら彼はランサーを見た 綺麗な体に傷をつけなくてはならないとは。セイバーは聖杯に対し苛立ちと、彼女のような美しい女性に合わせてくれてありがとうと感謝の気持ちを捧げた いざ!というときにセイバーの後ろに立つ女性―――アイリスフィールは「ところで」と二人の行動を止めた 「チャームの魔術を使っているのは貴方?」 アイリスフィールの問いにセイバーは少々驚いた ランサーがチャームの魔術を使っているとは思わなかったからだ 「ランサー、もしや貴方“百合属性”を持っていられるのか!?」 セイバーがそう問い叫んだ瞬間、ケイネスは噴いた 短い期間だがランサーと過ごして彼女にはそんな趣味があるように思えなかった。 いやもし「そうだ」なんて答えられたらどうしよう。 彼はランサーの親ではないのだが(多分彼女の法が年上だと思う)彼女には男性と真っ当な恋をしてもらいたい、そう思っているからだ。 ランサーは「百合とは何だろうか」と聖杯から受け取った知識をフル回転していた。 そして“百合属性”の答えを見出したとき必死に「違う違うそうじゃない!!!」と否定していた それを聞いてケイネスはホッと安堵のため息をついたことは言うまでもない 「これは持って生まれた呪いのようなもので、こればかりは如何ともしがたい!!私の出生を呪ってくれ!!!」 百合属性だと思われるのが嫌だったのだろう。凄い勢いで彼女は否定の言葉を並べた。 まぁ確かに同性愛者だなんて嬉しく思うものは少ないだろうと思う ランサーは「それはともかく!!!」と叫んで空気を変えた そうだ、忘れてはいけない。これは聖杯戦争なのだ セイバーはそれを苦しながらそれを思い出し、得物を握り直した 相手は敏捷に定評のあるランサー 油断していたらきっと首をすっぱり取られてしまうだろう セイバーはそれを理解し美しいランサーに集中した。 ―――――どれくらい交戦しただろう 結構な時間二人は剣を、槍を交えた 一段落ついたのだろう。二人はまた初めの立ち位置に立つと構えた 結構な時間交戦していたというのに二人の顔には疲労は見えず、体にかすり傷一つさえない そのときランサーは涼しげな眼差しのまま口を開いた 「名乗りもしないままの戦いに、名誉も何もないけど、賞賛は受け取って。 ここに至って汗ひとつかかないなんて、同じ女性として見上げた人だ」 彼女はセイバーに対して気持ちそのままの賞賛を送った 敵からもらえる賞賛は快いもの。ありがたく受け取るところであったが、セイバーは「すまないが、」と最初に謝った ランサーは何で謝っているのだろうか。敵から貰う賞賛は嫌なのだろうかと考えた セイバーはそう思っているであろうと予想しつつ口を開いた 「私、男なのだ。」 一瞬時が止まった気がした。 |