中学生になる前の話

明日で卒業するというのに僕と凰壮は美咲公園でサッカーをしていた
もうすぐ暗くなるから帰ろうかと視線を交わすと凰壮はインサイドでボールを止めるとつま先でボールを持ち上げた
そして手でキャッチして再びこっちを見た
僕はそれを見届けると駆け足で凰壮に近寄った。
「これで最期かぁ」
そう言えば凰壮は苦笑を描いた
「時間空いたら一緒にボール蹴るってさっき言ったばっかじゃねぇか」
そういう凰壮に僕は「でもさぁ」と呟き
「やっぱり、銀河一になりたかったなぁ」
と答えた。"銀河一"それは僕と凰壮だけで目指した物でチームはこのキーワードを知らなかった。
正直馬鹿馬鹿しい望みではあった。
僕らのチームはそんなに凄い成績を残したこともない弱小と言われれば弱小なチームなのだ
そんなチームが成り立っていたのは凰壮がいたからとも言える
凰壮は天才的な運動神経を持っていて幼い頃から結構なサッカーテクニックを身につけていた
そんな彼がチームを引っ張ってくれたから僕たちのチームは都大会準決勝までいけたと思う。
それに凰壮の場合はサッカーテクニックだけでなく戦術眼も長けていてキャプテンを務めていた。
それも結構理由に当てはまると思う
だからといってチームメイトが弱かったというわけでもなく、チームメイトも小学生ながら結構な腕前を持っていた。団結力も高い方だったし、正直負けるとは思っていなかった
だけど準決勝に当たったアマリージョとの戦いで惨敗する羽目になった
彼処は神の領域だと思った瞬間だった。
凰壮が後半悔しくて前線に上がった。コーチングはGKに任せて。
僕はとりあえず凰壮のサポートをするために前線から少し引いたところで待機した。
凰壮はボールを貰えばゴールを決めよう走り出して何度かボールを入れたけど前半にとられた分に追いつけず、試合は終了の合図を空に響かせた
挨拶をして握手を交わしてから凰壮はふらっといなくなった
僕はその凰壮を探すために駆け回った
彼じゃすぐに見つかった。開いていたコートに入っていた
悔しそうに涙を流して地面を叩きつけた
僕もやっと悔しさが込み上がってきて凰壮の傍まで行って泣いた。
銀河一になりたかった。
二人だけのキーワードだったけどその気持ちで挑んだから此処まで来られたのだと思う。
多分僕たちを探しに来たんだろう凰壮の従弟の双子と桂と太郎が来た
そして泣いてる僕たちを慰めるように僕たちに近づいて背中をぽんぽんと叩いた
急に凰壮の従弟の虎太が立ち上がったと思えば自分の弟の竜持と太郎の手を取って
「俺たちが銀河一になる」
と言った。それに続けるように桂がうんっと頷いて
「今はムリかもしれないけど、絶対いつか二人に銀河一を見せるから」
と微笑んだ。
任せた。そう言って凰壮は桂をぎゅっと竜持をぎゅっと抱き締めて声を上げて泣いた。
すぐにコーチに見つかり軽くだけど怒られたが僕たちは二人で彼奴らにたくそうと頷きあった。
それでもやっぱり銀河一になりたかったのだが、凰壮は呆れたというように深く溜息を吐いた
「虎太達に任せただろ。そう言うなよ」
と言った。それもそうだよねと微笑んで僕は凰壮が持っていたボールを引き取ってネットの中に入れた。

家への帰り道、凰壮は急に口を開いた
「俺さ、中学になったら柔道を始めようと思うんだ」
サッカーを止めて
僕は驚いて足を止めてしまった。それでも凰壮は足を止めずに歩いている
「・・・凰壮まで止めなくても良いんだよ?」
僕は勉強があるからサッカーを止めるけど凰壮が止める必要は無かった
凰壮は分かってないなと呟いて頭を掻いた
「止めるって言ったら止めるんだよ。お前がいないのに止めても面白くねぇし・・・・それに浮くだけだしな」
そう言って凰壮はぐっと手を握りしめた。
凰壮はプロ顔負けに上手い。あの時負けたのは僕が力量不足だっただけで凰壮は凄く強いのだ。
だからこそ部活内で"浮いてしまう"と思ったのだろう
それに先輩が恐いしね
そう言えば凰壮はまるで吐き捨てるように「いや、それは別に良い」と言った。
僕は驚いてつい大きい声を上げてしまった。
それをおかしそうに笑ってから凰壮は続けた
「そんなの認めさせれば良いんだろ。それに柔道だってなんだって先輩とか変わりねーだろ」
そう言われればそうだ。酷く心配した自分に呆れて僕は心を落ち込ませた。
なんて愚問してるんだろうか。
凰壮は身体ごとこちらに向きを変えてまっすぐ僕を見た
なんだろうと思って見つめ返せば凰壮はゆっくりと口を開いた
「だからさ、勉強頑張ってお前に追いついて一緒の高校に行くから、だからそん時は、高校行ったらまた一緒にサッカー遣ろうぜ」
僕は唖然としてその場に立ち尽くした。
今この親友は何と言っただろうか
それを飲み込むと同時に笑いが零れた
あはは声を上げて笑う僕になんか変なモン食ったのかとでも言う視線を凰壮は僕に向けた。
僕は荒れた息を整えるとそのまま凰壮を見つめた
「そんなまだ中学に上がってもいないのに高校の話とか早すぎるよ」
鬼が笑い転げて落ちて来ちゃうよ
そう言っていれば凰壮は肩を上げて微笑んだ
そしてから進行方向に身体事向きを変えると
「うっせ。」
と短く呟いて歩き出した
そんな親友の背中を見てまた笑いが出そうになる。そんな不機嫌な顔をしないでよ
僕は追いかけるように駆けだした。
そして凰壮に追いつくと凰壮に聞こえるような声で
「いいよ。高校に行ったらまた一緒にサッカーしよう。」
さっきの返事に答えた。
そしてお互いの拳をぶつけ合った。




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