1 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは呪文を口ずさんだ 聖杯戦争に参加するための従者<サーヴァント>を呼び出すために・・・ ―・・・彼が呼び出そうとしているのはケルト神話の英雄 ディルムッド・オディナ 現世には「妖精王オェングスを育ての親に持つ優れた戦士で、美しい容姿である上に、女性を虜にしてしまう魔法の黒子を、妖精によって頬に付けられており、二本の槍と二本の剣を持っていた。」と語り継がれている 主の婚約者であったグラーニアを奪い取り逃避行した末に主から許可を得て結婚。その後その主が死にそうだった彼を助けようとするが恨みなどから生まれた感情に邪魔され主は彼を助けられず死んでいったらしい なんと言う不忠義ものだろうかと暗い部屋の中で彼は心中で毒づいた 主の婚約者を奪うなど騎士としてどうかしているのではないかと だが今彼が手配できている触媒が彼のしかないのだから仕方ないだろう 今は一刻も時間が惜しい 彼は焦燥感を感じながら召喚の呪文を口ずさんだ ―――閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる時を破却する・・・・ 近くにたたずむ婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは今どんな心境だろうか 彼女がケイエスを好いてないのは一目瞭然だ だが、彼は彼女を好いているし、彼女を誰にも渡すつもりはない それがたとえ女性を虜にしてしまう黒子を持つ見たこともない英雄 ディルムッド・オディナが相手であろうと・・・―― ――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」 呪とくの結びであるフレーズを言うとともに彼は自分の中を駆け巡る魔力を加速させる それと同時に強い風が吹き荒れる 眼の端で婚約者が飛ばされそうになるのを踏ん張っているのが見える そして彼が召喚するために描いた魔方陣から溢れる光は人の形を作り上げた 届いたのだ。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの声が英雄の元へ そしてその英雄は口を開いた 自分の主が誰であるかを確認するために 自分を読んだ声が誰のものであるかを確認するために 「―――問おう、貴方が私のマスターか、」 その場に響いたのはアルトよりではあるがアルトとソプラノの間のような声 誤算だった 確かに今残ってる書物に信憑性を問われたらYESとは答えられないだろう だが今信頼できるのは書物だけだ だからケイネス・エルメロイ・アーチボルトは勘違いをしていたのだ 主の婚約者を奪い取った不忠義な英雄が“男”であると勝手に勘違いしていたのだ だから目の前に現れた宵闇色の髪を靡かせた人を見た瞬間に彼は驚いた ディルムッド・オディナが女性であったという真実に・・・・・・・ |