練習



「翔君また音外したな!!」
弦を止めてエリカちゃんがそう叫んだ
僕はうっと息を引っ込め恐る恐るエリカちゃんを見た
そこには鬼子母神のような顔で佇むエリカちゃんの顔があり、情けないながらもひぇぇぇえと変な声を上げてしまった
「まぁまぁエリカちゃん。翔君もわざと音を外したんじゃないんだし。ね?」
そう言いながら玲華ちゃんが止めに入った
玲華ちゃんありがとうなんて思いながらもう一度楽譜を見る。
外した場所はわかる。多分此処の高音だろう
「"あ〜っ"」
音に合わせて声を出す。こんな感じだろうか
「違う、そこの音は"あーっ"だ。」
そういって虎太君が近づいてきた
そうしてからまたあーと声を出す。成る程わからん。
僕のそんな状況を察したのか玲華ちゃんはキーボードを押して近づけると鍵盤を叩いて「この音だよ」と言った。
その音に合わせてまた声を出す。近づいてきたかな
「もうちょっと低くて良いかな、もう一回」
玲華ちゃんはそう言うとまた鍵盤を叩いた
先より少し低く・・・。
「"あ〜っ"」
「うん。そんな感じかな。じゃあちょっとそこだけ合わせてみようか。エリカちゃんと虎太君も付き合って。一回目の"この手で〜"からお願い」
そういって玲華ちゃんは僕の楽譜の一部を指さした。この辺りかららしい
エリカちゃんは了解というと弦を鳴らして音を試しに出し、すぐに止めてこちらをみて頷いた
虎太君もこちらを見て頷いていた
「じゃあ少し前から弾くから」
そう言って玲華ちゃんは鍵盤を叩いた
少し立ってから虎太君とエリカちゃんも合わせるように入ってくる。
そろそろだ。そう思い先程教わったことを頭に浮かべながら口ずさんだ。
今度は音を外さずにいけたと思う。いや実際行けたのだろう。虎太君も弦を止めてないしエリカちゃんも叱咤の声を上げる気配がない。
そう思ってから意識を完全に歌の方に向けた。意識を逸らしていたらまた怒られちゃう。
とりあえず歌いきって楽器が止むのを待った
もしかしたら此処で説教が来るんじゃないか。そう思って胸の前に拳を作った。
叱咤どんと恋!
「翔君今の良かったで!!!遣れば出来るやん!!」
そう言ってエリカちゃんは僕の背中を叩いた。え、本当に大丈夫だった?
「今の良かったぞ。本番もこの調子でいけよ」
虎太君もそう言って僕を賞賛した。
玲華ちゃんはただ嬉しそうにニコニコ微笑んでいたがどうやら文句はないらしい。本当に玲華ちゃんのお蔭だ・・・。
「じゃあ今の忘れんようにもっかいいくで!」
そう言ったエリカちゃん。虎太君もうんと静かに頷いた
「今度は意識を逸らさないようにね。翔君」
そう言う玲華ちゃんにばれてたんだと心の中で舌を出した
でも次は大丈夫。ちゃんと遣ってみせる
「それじゃ、みんないくよー」
玲華ちゃんのその声に応えて虎太君とエリカちゃんは応の声を上げた
それを確認してから玲華ちゃんは前奏を奏でるために鍵盤を弾いた。





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