その女性は凛々しくも美しい女性だった。 僕の棲まう小さな祠にやってきたかと思えば彼女はおにぎりを差し出してきた 僕はそれを受け取りながら彼女の話を聞いた。 彼女の甥は三つ子でそれぞれ凄い力を持っているそうだ 長男には獣神の神気が、次男には竜神の神気が、三男には鳥神の神気が強いらしい。 その為、沢山の霊や妖を呼び寄せてしまうのだそうだ。 彼女はそんな甥のために色んなモノの力を受けてしまっているらしい。 まず三男のために天神の元へ向かい、お札を納める。そこで天神の神通力をモロに喰らったらしい。 次に次男のために鬼の巣窟に赴き、彼女の魂を引き替えに契りを交わした。そして、そこで妖気を受けた。 正直、彼女の身体は見る限りもうボロボロであった。 今は僕の祠にいるお蔭で彼女の周りには何もいないが、この祠から鳥居を潜って外に出てしまえば彼女は沢山のモノの餌となり得るだろう どうしてそこまでするのかと問いかければ彼女は可愛い甥のためだと嬉しそうに応えた。 だから僕もいつもは隠している力を使用し、彼女の甥の長男、降矢虎太の守護を担った。 彼女が喜んでくれるのならば僕は彼を守ろうと思った。 だから彼が夜歩いているときにはいつも提灯を下げてついて歩いた。 まるでストーカーのようだけれど、夜の時間は危うい。一番彼らが狙われる時間帯だったからだ。 そして彼が無事家に着いたのを見届ける度に彼が置いていっているであろうおにぎりを貰った。 そのおにぎりの味は、あの日あの女性から貰ったおにぎりの味と同じだった。 それからずっと彼を見守り続けていた。 日に日に力を増していく彼はもう僕の守護が必要じゃなくなっていき、僕は危機を察知したとき以外は自分の祠に居座り続けていた。 祠で陽向を浴びていると、人の気配が感じられた。 その気配は見知ったモノで驚いてすぐに姿を現した 気配の持ち主は僕を彼女のような凛々しい目で見据えると口を開いて言った。 「俺を見守ってくれていた送り提灯はあんたか?」 送り提灯がなんなのか分からないが彼を見守っていたのには間違いないため、僕は首を縦に振った。 彼はそれを見ると急に表情を柔らかくしてから僕の身についている鈴を指さした。 「それ、俺にくれ。あんたの加護があるんだろ」 最近姿感じられてないから。でもあんたを近くに感じてたい。彼はそう言った 僕は一瞬呆然としたが、僕を望んでいるというのが嬉しかった。 僕は力を注いでからその鈴に黄色の紐を編んで彼に手渡した。 彼はそれを受け取るとギュッと握りしめて 「また来る。」 と短く言い放って鳥居を抜けた。 僕はあの女性を浮かべ、もう一度約束の言葉を呟いた。 送り提灯 (其ノ狐、彼ノ契ヲ愛ス) |