『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』

その声が耳から離れなくて、でも何処で訊いたのかも思い出せなくて僕は凄く困惑した。



――――夢だと分かったのはどこからだろうか、
もしかしたら最初から無意識に分かっていたのかもしれない
だけど、何処が最初なのかも実際分からない。
ただ、この夢を見始めたのは叔母が死んだときからで、この夢は目が覚めたら記憶がない。ただし、夢に戻ると記憶が存在するのだ。
本当に意味の分からない夢だなと思う。
意味が分からないのは前を歩く少年もだ
頭にはネコ耳のフードを被って、臙脂色のパーカーを身に纏っている
そのくせ、下は甚平のズボン部分に下駄だ。服の時代に差があり過ぎるだろう。
少年は自分と同じくらいかそれ以下で、頭は僕の目線より少し下にある。
フードに入りきれなかったらしい少し赤よりの茶の髪が緩くカーブを描いて手触りが良さそうに歩く度に揺れていた。
少年は僕の手を掴み、カランコロンと下駄を暗闇に鳴り響かせると

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

と楽しそうに歌い続ける
何度もそのフレーズを口ずさみながら彼は僕の手を引いて歩く
そして、僕の後ろには何かが身体を這いながら追いかけているのが分かる
それがなんなのか僕には分からないのだが、良い物ではない物であるのは確かだ。
禍々しい気がこちらまで感じられるのだから。
そして前方に光が見え始めると彼は必ずと言って良いほど唄を口ずさむのを止めて
「走るよ」
と振り返って微笑む
そうしてから僕の手を引っ張ったまま駆け始める
正直、毎回下駄で良く此処まで早く走れるなと思う
それほど彼は軽やかに走るのだ
そして光の中に入ると今度は周りが白く明るいところに来る。
その度闇の方を振り返ってみるがそこには闇など無いかのように白で色塗られている
そして、彼は中心に来ると必ず大きい声を上げて言うのだ
「にげきーった!!」
そして彼はフードを外しながらこちらを振り向く
その頭には二つの角があり、目は蛇のような感じの目だった。
僕が彼が鬼の子だと分かった瞬間に彼はいつも同じ事を告げる

「僕が君を守るから大丈夫だよ。」

そして、その声が頭に染み渡る前に、
必ず僕は目を覚ます。

腕には必ず緑と臙脂色の数珠が付いている。



(鬼から悪魔を守る鬼子の話)





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