彼は小児科医




「じゃあ、お薬は前回と同じ物を処方しますね。ユカちゃんちゃんと飲むんだよ?はい、指切りげんまん」
そう言って出した小指に少女は自分の小指を絡めて指切りげんまんを唱えた。
指切った。そう言って二人は小指を離した
「じゃあ、お母さん、お願いします。薬局の方にも伝えておきますので」
そう言って微笑む医師に少女の母親は安堵の笑みを浮かべてお礼を言って頭を下げた
「じゃ、ユカちゃん元気になるんだよ。先生との約束」
そう言って頭を撫でる医師に少女は嬉しそうに頷いて
「やくそく!!」
と言った。
それでは失礼します。そう言って診察を出る親子にお大事にと言って医師は微笑み、手を振った。
そして二人の姿が診察室から見えなくなったので医師はその場を立ち上がって先に裏口から外に出た。
あまり時間が経たずに親子は出て来て、医師を見つけると少女はバイバイッと大きく手を振った。医師はそれに答えるように微笑んで小さく手を振る。母が何度も頭を下げたのが見えた。そして向かいにある薬局に入っていった。
医師はそれを見届けると薬局に背を向けてまた裏口を辿る
診察室に戻る前に医師は着ていた白衣を脱いだ。
先程外に出たので一度殺菌しないとと思って殺菌剤に手を掛けた
すると裏口が開いた音がした。
その犯人が思い当たり、医師は大きい溜息を吐いた。
「凰壮君、いつも言うけど此処は小児科だよ?君今いくつなの。」
困ったように肩を落として裏口から入ってきた人を見た
外は寒かったのか鼻の頭を真っ赤にしながら「いいじゃんか」と呟いた。
良くないから言ってるんだけど・・・・なんて思いながら小さく溜息を吐いた。
それでも許しちゃうのがこの医師の良いところで悪いところである。
「診てあげるから診察室に入ってて。あと携帯の電源は切った?」
そう言えば彼はポケットから携帯を取り出すと暗くなってる画面を見せた。そしてボタンを押して画面に明かりが付かないことを証明すると医師は「良くできました」と微笑んだ。
「餓鬼じゃねーよ」と呟く彼に医師は「だったら小児科に来ちゃ駄目でしょ、」とツッコミを入れた。
彼は軽く舌打ちをすると黙って診察室に歩き始めた。
その背中をみて医師は苦笑を浮かべた。
人付き合いが苦手ではない男だというのは長年の付き合いの為知っている。
ただ疑い深い性格なのだ。簡単に人を信じられない性格。
だからだろう多分。自分のプライドを押し退いてまでもこの医師の小児科に足を運ぶのは。
薬局だって目の前の薬局ではなくこの医師と共通の知り合いの薬局に足を運んでいる。
それを知っているからだろう。医師も医師で彼を拒んだりすることがないのは。
他の兄弟はちゃんとしたところに言っているというのに・・・。
特別においているカルテを開きながら医師は椅子に腰を掛けた。
前を向けばいつもと違った大きい身体がある。その様子がどことなく新鮮で何故か安心した。
「で、今日はどうしたんですか、降矢さん」
そう問いかければ相手はむずがゆそうにこちらを睨んだ
「なんでその喋り口・・・。」
そう問う彼に「一応患者相手だから」と微笑んで返す。
その回答に彼は凄く嫌そうに顔を逸らしながら首の後ろを掻いた。
「で、今日はどうしたの」
普通にそう声かければ彼はチラッと医師の方をみてから正面を向いた
「昨日から鼻水とまんなくて喉が痛い。あと今すげーだりー。インフルじゃねーよな?」
いや、症状だけ言われても簡単に判定できないから。なんて思いながら医師は帰っていない看護婦を呼んだ。
「体温計、持ってきて貰っても良いですか」
そう問いかければ彼女は急いで体温計を取りに駆けだした。
院内で走らないで欲しいんだけどなと思いながら最近はいってきたばかりの看護婦を思い浮かべた。
「・・・・・やっぱりナース服って男のロマンだよな。」
先程の看護婦がいなくなった方をみながらそう言い出した患者に医師は頭を抱えた。
「凰壮君変な目で病院(うち)の看護師診ないで・・・。」
そう言う医師に「冗談だよ、マジにすんなって」と笑いかける彼にどちらが本心か分からなくなった。
体温計を持って帰って来た看護婦に「終わったら帰って良いから。後は僕がやります」と告げると彼女は頭を沢山下げながらその場からまたいなくなった。
そして体温計の電源を入れると目の前の彼に渡した
彼は黙ってそれを受け取ると自分の脇に挟むよう服の襟から挿入した。
計っているときに喋ったらきちんと計れないと昔怒ったのが影響してかはたまた本当に辛いのか分からないが音が鳴るまで彼はずっと言葉を発しなかった。
やっと音が鳴り、彼が取り出した体温計を受け取ると38.4℃と表記されていた。
インフルエンザという不安も出て来たので医師はとりあえずインフルエンザを検査するための準備を始めた。
相手を伺うと本当に辛そうで困ったように何度目かの溜息を漏らした。
そして医師は嫌がり痛がる相手に無理矢理インフルエンザの検査を執行した。
鼻血出たと呟いていたがそんなことしったこっちゃない。
検査の結果インフルエンザの結果はなかったので安心したがこのまま放っておくのも何だと思った。
確か今日の彼の家は一人だ。
長男はサッカーで海外にいるし、次男は今日は研究で引きこもると言っていた気がする。(薬剤師の知り合いからの話だが)
こんな状態の彼を1人にさせるのも気が引けた。
とりあえず薬剤師の友人に電話を掛けて薬をお願いする。
彼は快く承諾したが本来なら帰っている時間。本当に申し訳なくなって頭が上げられない。そうしても相手の視線が下がると言うことはないが。
とりあえず診察室のベッドにぐったりと寝そべってる体育教師に声を掛ける。
何とか医師の家で泊まることを相手は承諾し、医師はじゃあ薬取りに行こうと彼を起き上がらせた。
来たときはまだ悪態吐ける程度だったのにと思い微笑んだ。
彼を支えながらも病院内の戸締まりを確認して裏口から出た。
裏口の鍵もしっかり掛けて車まで運ぶ。
荒い友人の息を耳で聞きながら今日の彼のお粥をどうしようかと考えた。

彼は小児科医
大人だって面倒見てくれる良い人です。





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