重症者。



暑い。残暑というのに暑すぎる。
いや、残暑だから暑いのか。そう言えば残暑と斬首は似ている。
なんて物騒な考えをしながらランニングの距離を走りきった。
少し乱れた息をただす。ふっと顔を上げて周りを見渡した。
いつもと変わりない最初の到着メンバー。
とは言っても殆ど少人数だが。
コーチが腕時計を見て、何か飲み物買うかと言って凰壮君にお金を渡した。
くれんの?と訊く凰壮君にみんなの分ちゃんと買ってくれば残ったのやると消していた。
僕は身体を起こすとじゃあ僕が監視しておきますねと凰壮君に近づく。
それに11人分持てるはずがない。
すると凰壮君はげっと言う顔を向けてきたので軽く頭を叩いてやった。
コーチはじゃあ、竜持頼んだと言ってトートバッグを渡してきた。
確か以前杏子さんから渡されたモノだった気がするそれを受け取ると先に歩いてしまった凰壮君を追いかけた。

「―――結局俺が持つのかよ」
そう言う凰壮君を背に悠々と大地を踏みしめる。
手には僕の分と他にもう三つのジュース。
12個から8個に減ってるだけマシじゃないですかと言うと彼はムスッとしたまま口を閉ざした
多分僕の意図に気がついてるからだろう。だから僕は敢えてそのまま続けなかった。
グラウンドに戻ると西園寺さんと五年生以外みんな帰ってきていた。
スリーUと翔君はさっき帰って来たらしく、頑張って息を整えていた
僕はコーチの方へあるっていく凰壮君の背中を見送ってから一足先に息が整え終わっていた浮島君に近寄る。
「お疲れ様です。」そう告げてペットボトルを渡せば彼はさわやかにありがとうと微笑んでそれを受け取りキャップを開けた。
ごくごくっと喉を鳴らしながら飲む彼を確認してから、地べたに座り込んでいた内村君に近づき浮島君と同じように手渡した。
彼は疲れたように微笑みながら受け取ると「竜持君も早く飲んだ方が良いよ」といった。
僕ははい、ありがとうございます。と返してからスリーUの最後の一人、植松君の元へと向かおうとした。
だが彼はグラウンドに姿が無く少し首を傾げた
はて、どこへ行ったのだろう。
内村君に問いかけると水道へ言ったと教えてくれた。
僕はありがとうございますともう一度言ってその場を立ち去った。

近くの水道は一つしか浮かばず、そこに行けば彼はそこにいた。
彼はオレンジのカチューシャは水道の上の方に眼鏡とタオルと一緒においてあり、彼は水道の蛇口を逆さまにして勢いよく水を出していた。
そしてそのまま頭から水を被っていた。
髪に浸る水と肌を伝う滴に一瞬どきっとした。
すぐに気付かれたらしく彼はそのまま顔を上げてこちらを見た。
そして「あ、竜持。」と呟いた
何やってるんですかと問いかければ頭冷やしていたと苦笑した。
いつもカチューシャで留められている前髪が額に貼り付いていたりして新鮮に思えた。
そう言えばあの二人はカチューシャを外している彼の姿を知っているのかと疑問に思いながら飲み物を持ってきましたとつげた彼はありがとうと微笑むと水道の蛇口を閉ざすために前を向いたのに隙を見つけた。
その隙を見て冷えていたペットボトルを首筋に付けた。
別に腹いせではない。僕が知らない姿を二人が知っているから腹立ったとかそんなのじゃないと思う。多分。
彼はそれに吃驚して「ひゃあ!!!?」と声を上げて肩を上げた
それに自分も驚いて呆然と立ってしまった
植松君は顔を少し赤く染めながら首に手を当ててこちらを睨み付けてきた。
先程まで頭から水を被っていたためそれは扇情的で理性が崩壊するかと思った。
知性がこればかり役に立ち理性が帰ってくるのは早かった。
植松君は僕の手からペットボトルをひったくった。
そうして「ばかりゅうじ」と涙声で言ってからカチューシャとタオルを持って立ち去った
どきどきという音が耳について喧しい。
僕はそのまましゃがんで顔を伏せた。
もう自分は重症なんだと気付いて凹むと言うことはなく、寧ろ口元が緩んでいるのに気持ちが悪くなった。



(どうやって彼を奪おうかもう思案している自分が恐い。)




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