君が居るからこそ僕は大人になれる



雨がぼつぼつと傘を叩く
その音が恨めしく、ヘッドホンを耳につけた
iPodの電源を入れて音漏れしない程度に音量を上げた
それでも雨は喧しいほど音をたてながら自分の傘を叩く
ぼつぼつ、ぼつぼつ
音楽の隙間から聞こえる雨音に腹が立ってくる
元から今日は機嫌は良くなかった
原因はわかってる。俺の同い年の兄弟のうち二番目の兄
思い出すだけでも腹が立って水溜まりを蹴った
滴が弾ける
靴の中がぐっしょりと濡れて気持ち悪い
どこかで雨宿りをするかと回りを見渡した
そこでふと足を止めた
本屋の前で困った顔をして空を見上げている浮島がいたからだ
無視するか否か迷ったのだが、バレたら後が面倒なのでヘッドホンを外して近寄った
声を掛けると奴は安堵してこちらに微笑んできた
傘はないのかと聞いたらすぐ終わるから大丈夫だと思ったんだと苦笑を浮かべた
こいつらしいと言えばこいつらしいと思った
暫く会話してから俺は自分が差していた傘を手渡した
雨はまだ止む気配がない
浮島はいいのかと問いかけきたが俺は竜持か虎太に電話するから大丈夫と返した
暫く心配しながらこっちを見てきた浮島だが、暫くするとわかった借りるねと傘を借りた
そして立ち去る奴の後ろ姿を見送ってから視線を濡れた地面に移す
正直二人を呼ぶ気にはなれないし、携帯は家だ。
浮島には嘘を吐いた
でも罪悪感はない。
むしろ浮島が帰れて良かったじゃないかって思う。
さて、そろそろ動き出すかと顔を上げた瞬間目を見開いた。
人混みの奥で傘も差さず雨にずぶ濡れで何かを探すように周りを見渡す竜持の姿が見えたからだ。
白いYシャツを着ていたからか雨に濡れて素肌が透けていた。
髪も首に張り付いて艶やかに映し出していた。

虎太も色気がある。二人とも色気があるのにだ。
俺には色気のいの字もなく、デリカシーさえ無いと言われた。関わったことのない女子共に。
それに変わって竜持はと言い続けていたのが凄く喧しくて腹が立ったのだ。
それを言ってみればまるで本当に弟を甘やかすように奴は微笑んで「凰壮君は可愛いので必要ないじゃないですか」と言い放ったのだ。
それが尚更むかついて俺は黙って机を蹴り飛ばした。
そうしてから竜持の言葉にも虎太の言葉にも耳を貸さず傘を持って外を出たのだ。
まるで兄貴ぶるかのような態度が、自分よりも大人びているのが本当にむかついて仕方なかった。

気付かれたらまずいと思って咄嗟に頭を下げた。
それだけでバレないとは思っていなかったが・・・。
案の定バレてしまい「凰壮君!!!」と声を上げたのが聞こえた。
目線だけ持ち上げて見ると必死に人混みをかき分けてこちらへ駆け寄ってくる姿が見えた。
今は凄く逢いたくない。逃げよう。
そう思っても身体はその場に縫い付けられているようで動けなかった。
何もあるわけがないのに自分の足下に目を向けた。やはりそこには何もない。
そうしてまた顔を上げた瞬間に何かが飛び込んできた衝動を感じる
倒れるのは恥ずかしいので何とか体勢を立て直したが何か言おうとした瞬間に手を掴まれ、雨の中にそのまま連れて行かれた
さほど歩いてないうちにいつもは子供が喧しい公園に着いた。
今は雨というのもあってか誰もいなくてしんみりとしている
竜持はそのまま昔よく遊んだ二等辺三角形が幾重にも重なって出来た変な遊具に近寄っていった
一面一面に顔があって、中に入れて、女子は良く中でおままごとを遣っていたなと思い出す。
竜持は何の躊躇もなくその顔の中に入っていった。
勿論手を引かれた俺も。
中に入ると竜持はやっと止まってくれた。
そう言えば子供の頃は高く感じたのに今じゃてっぺんに手が届くなんてのんびり考えていると竜持にまた抱きつかれた。
本当になんなんだと聞けば奴は蚊が鳴くような声で「ごめんなさい」と呟いた
何度も何度もごめんなさいを呟いて泣きじゃくる竜持に動揺していると竜持は顔を上げた。
とても綺麗に泣くからまたむかついて奥歯を噛みしめて顔を背けた。
竜持は三つ子の一つで俺と同じなのに俺にないモノを沢山持ってる。
それが許せなくて仕方ない。
目の前の竜持の泣き声と遊具を打つ雨の音で凄く耳が痛い。
ぽつりと竜持が何かを言った。
何を言ったのか聞こえずに問いかけながら前を向くといきなり唇を重ねられた
それもちゅっと軽く音が鳴る様なモノではなく、そのまま無理矢理舌を入れられた。
流石に足が耐えきれなくなってがくっと地面に座り込んだ。
何をすると睨み付けたが奴は俺に覆い被さった。


「君が居るからこそ僕は大人になれる」
(だから勝手に居なくならないで)




――――――――――――――
こんな話になるはずじゃなかったのに・・・。


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