部活



部活の時間となった。白石は頭にたたき込んだ各部員の練習スケジュールを皆を集めて伝える
「――――以上が今日の練習や。各自取り組み始めや!!」
そう一人ずつの目を見ながら伝えると部員は全員腹から声を出す様に大きく返事をした。
解散と告げると各自の練習を始める為に皆ばらけ始めた。
それを見届けてから白石は一つ溜息を吐いた。
すると、急に横から「白石」と幼さが抜けない声が聞こえた。
なんやの、と言いながら振り返ると、今年の春入部してきたばかりだというのに他の部員を圧倒し、レギュラーの座に昇った一年の遠山金太郎がこちらを見ていた。
金太郎は白石をじぃっと見つめると
「何で銀はこんの?」
と短く問いかけた。
この問いは今日で何度目だっただろうかと白石は記憶を辿る。
数え切れないほどになったこの問いを白石は溜息を吐きながら答える
「あんな、何度もゆうとるけど師範は女テニやねん」
「じゃあ何で一氏はきとんの!」
金太郎はまた新しい問いを白石にぶつける。
この会話も何度目だっただろうか
「一氏はミクスド要員やから来て貰わんと困るねん」
律儀にまた金太郎の問いに答えを返す白石。
納得いかないという感じで財前と会話をしてる一氏を横目で見ながら金太郎は反論した
「何でや!一氏だけずるいやんけ!」
ずるいもずるくもない。
女テニでダブルスがいけるのは彼女ぐらいだったし、何よりも小春とのペアは結構強い方だ。寧ろ凄く面白い。
「ずるない。一氏はな、ミクスド選手に選ばれるだけすごいんやで」
そろそろ納得してくれないかななんて何処か思いながら白石はそう答えた。
回答があまりにも納得いかなかったらしく金太郎は大きい声を出すと
「銀のが凄いもん!!!」
と駄々をこね始めた。
白石は全くこのゴンタクレは・・・・なんて思いながら最終手段を取ることに決めた。
右手に巻いてある包帯をしゅるっと少しだけ外すと金太郎の首もとに近づけた
そしてこれ以上ないというくらいの低音の声を出して告げた
「ゆうこと聞かん子にはやっぱり毒手やろなぁ。なぁ金ちゃん?」
金ちゃんは化け物を目にする様に怯えながらゆっくりと白石の右手を見る。
そうしてから泣き喚く様に金ちゃんは
「もう我が儘言わんから毒手は堪忍んんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!」
と叫んで白石から逃げる様に走っていった
白石はそれを見届けながら包帯を直すと安堵のため息を吐いた。
そこに「白石」と彼を呼ぶ声がした。
聞き慣れないが本日一度聞いた声に目を向ける。
目を向けた先には本日己に喧嘩を売ってきた少女―――小石川健がこっちを睨んでいた。とっさに苦笑いを浮かべてしまった
彼女は棘のある言葉で「部活について話がある」と告げた。
そんなに睨まんでも・・・・なんて思いながら反射的に一歩二歩下がる
そんな彼女を宥める様に彼女の肩に一つの手が置かれた。
そして銀が姿を現しながら「そないにすごんだらあかん」と言った。
その銀に健はむすっとした顔をしたまま「わかっとる」と答えた。
その事に少しだけホッとしながら白石は「なんや、師範もきとったんか」と微笑んでいった

その言葉を聞き取ったのか地獄耳なのか白石から逃げ去った金太郎はピタッと制止した。
そしてそれは嬉しそうに「銀きとんの!!!」と言って満面な笑顔を浮かべて銀のいる方へ走り出した。
「ぎーーーん」
と彼女の名前を呼びながら抱きつこうと思ったが途中でピタッと止まった
財前と銀が親しげに話していたからだ。
銀はその金太郎に気づいたのか金太郎を見ると穏やかに微笑み、
「金太郎はんも元気そうで何よりや」
といった。その際財前がこちらを見てドヤ顔を浮かべていたのが眼に付いた。
その事に憤りを感じた金太郎は身体をぷるぷると震わせてからドヤ顔を浮かべ、己の大好きな銀と親しげに会話していた先輩に掴みかかった。

「――――で、話ってなんやの」
今朝喧嘩吹っ掛けてきた健を見て此奴部長だったんだと思いながら白石はそう問いかけた。
銀と少し会話してから健に連れられてテニスコートから少し離れたところに連れてこられたのだ。
なんでもミクスド選手一人を送らなければならないらしい。
ミクスドは去年3年の先輩と一氏の二人が選ばれていた。
3年の先輩が引退した際一人また選ばれたのだが、その子は家族の問題かなんかでつい最近引っ越してしまったのだ。
運が良いのか悪いのか。
それで本当は女テニの顧問が男テニの顧問に相談を持ちかけて話をするのだが、今日は会議があるために部長の健が任されたのだ。
「――――てなわけなんやけど、希望はあるか。」
二年と三年なら把握してるだろう。そう健は白石に告げた。
白石は腕を組むと「そうだなー」と唸り始める。
ふと、先程金太郎が師範とやりたいと駄々ごねていた事を思い出し、白石は師範は?と提案した。
馬鹿じゃないのとでも言う様に健は深いため息を吐くと
「師範は基本シングルスプレイヤーやねん。師範がダブルスでいけるのは結構限られてるし、あのパワーやからな。難しいっちゅー話や」
理論を付けてそう答えた。確かにそう言われればそうだと納得し、白石は金太郎に心の奥底で謝った。
じゃあと白石はふと頭に浮かんだ少女の名前を出した
「謙とかはどうやろ」
その言葉を聞いた健の中でドクンッと何かがなった。
それが何かは分からないが健は無性に腹が立って普段なら気にしないことを理由にして白石に叩きつけようとした。
謙のことを気安く呼ぶな。
そう言おうとしたが途中でそれは遮られた。
後ろにどしっときた重みと人の温かい体温。
そして「なにしようとね、白石」という声に。
急に謙に抱きつきながら現れた千歳に拍子を抜かれぽかんと半口開けてアホ面を浮かべる白石に千歳は凄く面白がりながら指摘した。
白石は指摘されるとすぐアホ面を引っ込めて元の調子に戻りながらも「余計なお世話やっ」と言った。
千歳千里―――最近九州から引っ越してきた"二翼"の一人。放浪癖がある所為であまり学校にいることが無く、今朝の騒動をも知らないだろう人物。
そんな彼に一つ溜息を吐くと、白石は
「ちゅーか、いつまで抱きついとんねん、千歳」
と指摘をした。白石が密かに恐れている健に抱きついたままだったのだ。
千歳は「おぉ、すまなか」と笑いながら彼女を放す。
解放された彼女は身を放す様に千歳との距離を置いた。
そんな二人を見て、何を勘違いしたのか千歳は驚いた様に
「ひょっとして白石んこいびっ」
と、とまで言おうとしたが二人に同時にないっ!!と否定されてホッとした表情を浮かべた。
そして千歳は間違えたことを恥ながら首の後ろに手を当てて
「むぞらしかと間違ってしまったばい」
と謝罪した。健はいや、べつに・・・と彼の事を許す姿勢を立てた。
千歳は許されたと分かった瞬間に、彼女に問いをぶつけた。
「で、なしけん怒っとったと?」
その問いに彼女は先程の記憶を思い出した。
何故かと聞かれても理由は本当に当てつけだ。本当の理由など実際は見つかっていない。
それを赤の他人に気付かれるのが恐くなって健は「何でもない」と答えた。
「とりあえず謙ならダブルスいけるし、相談してみるわ」
先程まで相談していた事の結果を告げると彼女は「ほな、決まり次第」と言って逃げる様にその場を走り去った。
その立ち去った健の背後を見て、白石は「何やったんやろ」と呟いた。
その横では千歳が先程の健の行動を思い出し、密かに口元を緩めた
「あん子は友達想いんよか子やね」
と言った。
―――――桔平と同じばい






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