さくらびと



「先輩満開になりましたね」
「そやろそやろ?めっちゃ美しいやろ?!エクスタシーやろ!」
「いや、正直言ってキモイッすわ。」
時はそれから何日か後。桜も咲き乱れた頃。
花見と称して光が訪れた。
相変わらずの可愛らしくないその言葉にどこか傷つきながら彼に応える
ただ単に素直じゃないだけなのもよく知っている。
どうやら彼は師範と花見をすることになったらしい。
その事だけは滅茶苦茶嬉しそうに語っていった。
もう恋しとるようにも見えるわなんて想いながら彼の師範話を黙って聞く。
沢山話したところで「じゃあ、そろそろいきますんで」と彼は退散した。
おぉ、たのしんできぃやなんて言って彼に手を振る。
さぁ、一つ酒でも嗜むかと思って腰を下ろした瞬間何かが落ちるような音がして身体をビクゥッと跳ね上げた
何事かと立ち上がってそっちに行くとそこにはもうすでに立ち上がって膝の泥を払っている少女がいた。
その子は以前、まだ蕾だったときにこちらをガン見していた少女だ。
彼女はテニスバッグを肩にかけると肘の辺りを見て怪我をしていないか確認する。
右肘が擦ってあることに気がつくと彼女はバンソーコを取り出すでも泣き出すわけでもなく、勇ましく右肘を一発パァンッと叩いてよしっと頷いた。
いやいやそんなので治るわけないから。ほらほら血が出てるからと突っ込みを入れたいのだけれどそんなことをする前に彼女と目があった。
すると彼女はそのままゆっくりとこちらに歩み寄った
自分は条件反射的に彼女から遠ざかるように一歩二歩と後ろへ歩む
やっと止まってくれたと思った時は彼女は真剣な眼差しでこっちを見た。
あ、これは逃げたらあかん。
そう思って遠ざかるのをやめて彼女の方を見た
彼女は逃げるのを止めたんだなと気がつくと口を開いた。
「あんたがさくらびとか」
自分はそれに応えるように口を開いた
「人との間ではそう言われとるみたいやな」
彼女はじゃあ他に名前はあるのかと問いかけてきた。
何処か昔似たようなことを問答したことがあると思いながらおんっと頷いた
「蔵ノ介っちゅー名前が一応あんねん」
彼女はその言葉を聞くと可笑しそうにプッと笑った。
「自分、名前桜と一切関係ないやん」
そう、ケンと同じ事を彼女は言った。
そうしてから彼女は寂しそうに笑うと小さく言った。
「やっぱり、もう覚えとらんよな」
その声は小さくて他の人の耳には入って来られないんじゃないかって言うほど小さい声だった。
―――嗚呼、やっと出会えたのに。
どこからともなくケンの呟くような声が聞こえた。
そっか、ケンやったんやな。
そういう暇もなく彼女は出口はどっちかと聞いてきた。
どうやら時をかけられるかもしれないと思ってジャンプしてみたらしい。
うん。自殺未遂かと思って吃驚したわ。
そう思う瞬間もなく自分の身体はとっさに動いた。
触れられるわけはないけど。今帰してはいけないと思った。
だから彼女を抱きしめるように手を伸ばした。
するとこの手に触れた感覚が感じられた。
彼女の身体を包み込むように腕を回してぎゅっと抱きしめた。
ただ勢いがありすぎて彼女も一緒に倒すようになってしまったのは不覚だと思った
嗚呼それでも抱きしめられてる。腕が身体に触れられてる。それが嬉しくて涙が浮かび上がる。
そんな自分を見て、彼女は同じく涙を浮かべながら微笑み
「覚えとるんならはよいえや。蔵」
そういって抱きしめ返してくれた。



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SunSetSwish「さくらびと」より





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