さくらびと



遠い昔約束したことがある。
それは恋情から来ているモノであった。
さくらびと―――世の中では俺はそう言われているらしい。
そう教えてくれたのは誰でもない。彼だった。
彼との出会いは平安時代と今言われている頃。
彼は貴族ではなかった。
だけど人のことを優先し、明るく元気に生きていた。
自分の事を唯一見られた人間だった。
沢山のことを彼と話した。
彼も結構なことを自分に話してくれたと思う。
そうやって過ごすうちに彼に恋愛の情が浮かんでしまった。
彼も同じだったかは今の自分には分からない。
ただ、彼はその想いを知っても自分から離れようとしなかった。
彼の死因は餓死。優しすぎた故の死因だった。
貧しくなっていく自分の村で彼はみんなの生存を願った。
だから自分の分はいいからみんなが食べてと言って彼は一口も食べ物を口にしなかった。
最後は自分の・・・我が身桜の近くで死にたいと微笑んだ彼を抱きしめるに出来なかった自分を悔やんだ。
そして彼は桜の木の下で息を引き取った。
彼の死体を埋めようと沢山の桜を散らした。
彼が幸せになれるなら。そう思って彼を我が身で埋め尽くした。
そして最後に交わした彼との約束。
―――もし、俺がまた生まれ変わったら桜の下でまた逢おう
それを胸に抱き、幾らかの時を過ぎていった。



「あ、先輩の時期でしたね。そろそろ」
色づく己が分身を見ているとふいに後ろから声を掛けられた。
無愛想でかわいげのない声。カラス天狗の光だと分かった。
「そうやで。今年もこの街を俺色で染めるんや。あぁんエクスタシー」
「いや、それキモイんで止めてください」
相変わらずつれない後輩に残念そうに肩を落とした。
キモイなんて可愛げ無いな。そう思いながら。
「それよかなんや。また師範っちゅー人んところにいくんか?」
山伏の服を着て空を浮いてる彼に聞いて見る。
すると彼は嬉しそうに頷くと「今日もきていいって言うてもらったんで」と言った。
師範とは今彼が尊敬している寺の住職で、凄い気前が良い優しい人間だそうだ。
彼も光が見えるらしくて、出会いは光が怪我したところを助けたらしい。
話によると彼は触れる人らしくて自分ら妖怪を人間と大差なく扱ってくれるそうだ。
最近では酒呑童子の金ちゃんも彼に懐いてるらしい。
「先輩はまだ此処におりはるつもりなんですか」
光の問いに俺は苦笑しながら頷いた。
まだ逢えないまだ逢えない。約束した彼を待つために此処から動こうとは思わなかった。
光は少し残念そうにそうですかと呟くとこの場を後にした。

今は平成。あの頃から結構な時間が経った。
とは言っても自分は桜有るところに自分在りな感じなのであまり歳を感じることはなかった。
この地球ッちゅーモンが無くなるまで自分は生きてるんだろうなぁとどこか思った
それまでにあの子に逢いたいモノだ。
未だ逢えずじまいの約束したその人を思って蕾が目立ち始めた自分の分身を見上げた

「―――でさぁ」
「―――そうなんよね」
「部長としてどう思う?」
ふと声が耳に入った。
きっと近くの道を四天宝寺の女子テニス部が通っているのだろう。
そちらに目を向けると一瞬固着した。
一人の少女がこちらをガン見してるではないか。
「それよりもケンは此処通るの初めてやったっけ」
金髪の少女がその子に問いかける。
その子はこちらから目を外さないように「おん」と短く答えた。
「ここな、桜が咲くとごっつぅ綺麗なんやで!」
金髪の少女は自分の手を広げてその美しさの凄さを身体で表現しようする
「ちゃんと前向いて歩きや謙。でもそうやな、此処の桜は咲き始めるとごっつぅ綺麗やねん。でもあまり知ってる人は少ないらしいで」
緑がかった赤いバンダナの少女が金髪の少女を注意しながらこっちを見て(多分俺のことは見えてない)そう言った。
「ちゅー事は隠れた名所って事か?」
こちらをガン見していた少女はその友人の二人を見てそう問いかけた。
二人は首を振ると「ちゃうちゃう」と言って理由を述べた
「なんか昔っから此処には守護神みたいなモンがおるんやて。で、その守護神はさくらびとっちゅーんやけど、全国の桜を守っているんや」
バンダナの少女はそう説明する。そして続けて金髪の少女が
「なんでも、此処で花見をやらかしたりすると呪われるんやて!昔一人の男の人がその呪いで死んだッちゅー話もあるらしいで!」
と両腕をさすりながら言った。がバンダナの子が「あれ?」と言って金髪の少女を見つめた
「うちの聞いた話とちゃうな。うちがきいたんは昔その男の人がさくらびとを見ることができたんやて。でさくらびとはごっつぅ美人な女の人でその男の人も恋に落ちたらしい。でもその男の人は凄く優しくて、飢えて死にそうな村の人たちに自分のは良いからって何も食べずに働いたんやて。そんであ、もう駄目やって思った時に自分が大好きな桜までいって、そのさくらびとに包まれて死んだらしいで。で、さくらびとはそれが悲しくて悲しくて、でもその男の人に安らかに眠って欲しいからって、自分の桜を散らせてその人を埋めたんやっちゅーロマンチックな話や」
おぉ、バンダナちゃん詳しいやん。ちょっと足らんけど殆どあってるで。
なんて聞きながら顔がにやけてしまった。
美しい女の人と言われたのは少し残念だったが、あん人との出会いをそなロマンチックって言われるのは嬉しかった。
女の人抜きやったらそれはそれで嬉しいんやけどな。
ガン見していた少女はそうなんやと言うだけでこの場を立ち去った。
それを追いかけるように友人二人も立ち去る。
なんかおもろい子達もいたもんやなそう思って微笑ましく笑った。
それはまだ蕾の頃の出来事

―――満開になったらはっきりと見えるかも。

少女は一人誰にも聞こえないように呟いた。





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