天狗と名前




最近夏目が変だ。
何が変かというと何かが変だ。特にこれと言った点はないんだが、変なのは変なのだ。
俺が天狗になったのだと告白したときから様子がおかしい。
俺が天狗の話を出す度に友人帳が入っている鞄やバッグを指でなぞってから何かを振り払うように首を横に振ることが多くなった。
もしかして、俺が友人帳を狙うと頭によぎって、それはないと首を振っているのだろうか
もしそうなら、俺の存在は天狗になってから夏目にもっと迷惑をかけ始めているんじゃないか
そう疑って止まない。
ふと、いつも感じられないキツい気配に身体を強張らせた。
自分の家の結界は体質的になれてるから問題はない。
ではこれは一体誰の・・・・?
そう思って自分の家の敷地内に入った瞬間背筋に寒気が走った。
何事かと目を向けると、本堂から自分と同じ黒い髪が靡かせた男が近寄ってきた。
顔を持ち上げた彼の顔の右目には包帯が巻いてあり、文字が書いてあった。
瞬時に何かからあの右目を守ってるのだと理解した。
「久しぶりですね…と言っても記憶には無いでしょうが。」
男はそう言って妖しく微笑んだ。
彼は俺の元まで近づくと手をさしのべた。
俺は何か恐怖を感じて足を一歩引いてぎゅっと鞄を抱き上げ、握りしめた。
そんな俺に気にせずに彼は言葉を続けた。
「的場静司です。早速ですが要君。僕の式になりませんか?」
本当に早速過ぎる気もする。なんて言ったらまた封印されてしまうんじゃないかと戦慄した。
ついでに言えばこの誘いを断っても同じ結末だろう。
だからといって、彼の式になりたいとは思わない。
確かに幼い頃、天狗の玉を飲み込んだときには助けて貰った。
だけど、だからといって俺は彼の式になりたいと思わないのだ。
そう、そめてなるなら夏目の友人帳に名前を載せる方が良い。
彼は俺のその意図を見抜いたのか残念そうに手を下ろすとため息を吐いた。
「やはり、夏目君ですか。彼と関わらないようにさせれば良かった。」
彼はそう言いながら雨など降っていないのに番傘を開いた。
「まぁ、またそのうち心変わるでしょう。それを待つとしましょうか。では」
男はそう言って俺の横を通り過ぎた。
久しく来なかった目眩で身体を地面に付けた
そして荒くなる息をどうにかして落ち着かせようとした。
嗚呼、こんなにもこんなにも、祓い屋が恐いとは思わなかった。




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