天狗と名前



田沼はすぐに、多軌にあのことを話した。
多軌はいいなぁと言いながら「でも、田沼君は田沼君だよね」と微笑んだらしい。
彼女の良いところで強いところだと思う。
女の子なのにもしかしたら俺の知ってる男の人より男らしいんじゃないだろうか
そう疑うこともしばしばある。
田沼は本当に多軌は凄いなと微笑んだ。確かに凄いよなといって俺は微笑み返した。
そしてから田沼は「最近あのカラス天狗に色々教わってるんだ」と言った。
何を?と問いそうになった口を噤んで俺は頷いた。
大天狗のことだろう。力の制御の仕方。戦闘の仕方。今まで妖怪の気に当てられやすいただの少年だった彼は必死にみんなに追いつこうとしているんだ。
学校のあとに行っているのかと思うと大変ではないかと思い、彼に問いかけてみると彼は苦笑を描いて「大変じゃないって言うと嘘になるけど」
でも、夏目や多軌、西村や北本を助けられるなら俺は大丈夫だよ
彼はそう微笑んだ。

右手で友人帳の入っている鞄をなぞった。
田沼に名前を下さいって言ったら田沼はくれるだろうか。
そんなことが思考に遮って俺は頭を振りかぶった。
そんな奇行に田沼はどうかしたのかと心配げな声で身につけている天狗の力を抑えている数珠に触れる。
妖怪の所為だと思っているのだろうか。
大丈夫だよ何でもないからと田沼に微笑みかける。
実際妖怪の所為じゃなくて自分の問題なのだから。
そんな自分を隠すように田沼に問いかける
「その数珠って何で出来てるんだ?」
田沼は一瞬きょとんとした顔をしてから「あぁ」と声を漏らし、彼は数珠を指さした。
「なんでも、大きいのは殺生石を削って作り、小さいのは鬼の角から作ったらしい」
昔、誠司さんから貰ったんだって。彼は寂しそうに応えた。
そこまでしてまで作らなくても良いのにな小さく彼がそう呟いたのを聞き逃すことはしなかった。
やっぱり田沼は優しいな。そう思いながらどうにか彼を元気付かせて彼と別れた。
田沼の名前をほしがる自分をどうにかしないと。そう苦笑を浮かべながら俺は帰路を辿った。





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