することがなく、暇を持て余していたため
非番の彼の部屋にお邪魔することにした

タバコと彼と、少しの汗のにおいが鼻につく

リビングには部屋の主の姿はない

奥の部屋は何かを打ちつけるような激しい音が聞こえてきた
音の元へと歩いていく

「また、鍛えてるの?」
「ナマエか、ノックぐらいしろ」
「したけど、気付かなかったんでしょ」

ふぅ、と息をついてから彼は私に近づいてきた

「何か用か?」
「ううん、暇だったの。邪魔しちゃったかしら」
「いや、大丈夫だ」

私の頭をくしゃりと撫でてから部屋を出て行った
彼に追いつくように私も少し早歩きでついていく

シンプルにまとめられた彼の部屋の中で異色を放つ部屋

彼はいつもトレーニングを終えた後、ここに来てタバコを吸う
そして写真を憎しみのこもった目で見つめるのだ

「…そんなことしたって佐々山さんは戻ってこないよ」

紫煙を散らしながらこちらに視線だけを寄せる

「タバコを吸ったって、ネクタイを緩めてだらしない恰好をしたって
 帰ってはこないんだよ」

「ねぇ、もうやめようよ」

これ以上彼が堕ちていってしまったら、
次は私が同じようなことになってしまうかもしれない

もともと鋭い目が、もっと鋭くなって私を射抜く

「これは俺の問題だ。止めないでくれ」

彼はタバコを握りしめてしまった

「私、不安なの
 あなたがどんどん離れて行ってる気がして…
 みんな周りから消えて行ってしまうの」

私はどれだけ迷惑な女なんだろう
勝手に部屋に上り込んで、勝手に泣きそうな顔になって

彼は先ほどより幾分優しくなった目を向けて抱きしめてくれた

「俺はどこにも行かない
 だから、少し待っていてくれ」

「…うん」

本当にどこにも行かないで
私の大切な人
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