僕と同じ、この世界のシステムに見放された少女ナマエが
ここにきて、もう6年にもなる
最初は固かった表情もだんだんと柔らかくなり、今では笑顔や涙も見せてくれるようになった
*
ある日の午後、僕とナマエはいつもと同じように紅茶を飲みながら
読書をしていた
二人の間に紙をめくる、小さな音だけが行き来する
しばらくすると、前の方からグスン、と鼻をすする音が聞こえた
この部屋には僕とナマエの二人しかいないから今の音を出したのは
必然的にナマエとなる
「どうしたんだい」
「この本の主人公が、可哀そうなの」
掠れた声で返事をする
彼女は登場人物に感情移入して涙を流したのか
シビュラの犬にはない美しい感性だ、と僕は感心した
「泣くことはない
話を読み進めると、その主人公は救われるかもしれない」
目じりの涙をそっと指で掬って頭を一撫でした
実際に僕はその話の結末を知っている
結局、主人公は魔物に食べられて死んでしまうのだ
でも、それをいま彼女に伝えると今以上に大粒の涙を流してしまうに違いない
僕はあえて期待させるような発言をした
そうすればきっと泣き止むから
するとやはり彼女は少しだけ期待の色を瞳に浮かばせてこちらを見つめていた
「そう、かもしれない。もうちょっと読んでみる」
少し、紅茶を啜って彼女はまたページをめくり始めた
フッと、僕も微笑んで読書を再開した
ある日の午後の話
(かけがえのない存在の君)