物影から見つめていられるだけで満足だった。あの艶のある髪、なんだか全てを見透かしているかのような瞳。クスクスと笑うのは彼の口癖のようなもの。いつも赤いハチマキを額に巻き、試合中には手袋をつけて、それで。私が彼について知っていることは数少なくて、彼の趣味云々はなにも知らない。好きな音楽のジャンルだとか、好きな食物だとか、なにも。
だからと言ってストーカーみたいに調べまくったりはしないけど、でも、少しでも彼の好きなものについて知ってどこか接点を持ちたい。話しかけて、その・・・あわよくばお友達に、なんて下心満々でー、ね。



「で?アンタはどーしたいわけ」
「ど、どうって・・・」

物凄い剣幕で私に迫ってくる優ちゃんは、はぁ、と呆れ顔でため息をついた。私はうっと言葉に詰まって俯いていると、頭の上からクスクス、と私のよく知っている声が降ってきた。

「き、木更津くん・・・!」

あぁ、声が上ずってしまった・・・!
そんなことも気にしないで木更津くんは、仲がいいんだ、とクスクス笑っていた。ぱちぱちと瞬きをしていると優ちゃんがにやりと笑って

「仲よしだけどなに、木更津羨ましいの?」

にやにやと効果音がつきそうなほどににやついていた。ちょっと、優ちゃん!と止めても、アンタは黙ってなさいと一括され、泣く泣く黙る。木更津くんはクスクスと笑い、さぁね、と言って席に戻って行った。
いっちゃった、と少し肩を落としていると木更津くんが何かを思い出したように立ち上がって私達のもとへ戻ってきて私に耳打ちし、私はその意味深げな言葉に固まった。

「僕も仲良くなりたいな、名字さんと」

それは、どういう意味での仲良く?




心臓美賛歌




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