ワン・マン・ショー[one-man show]
飯が先か、酒が先か。
嬉しげに調理をする奴の背中が見える席に、気配を消して座りながら考えた。
夕食の支度をする細い身体は、ひらひらと踊るように忙しく動く。
「うわああ!?」
振り向いた途端、貧相な悲鳴を上げ、美味そうな匂いを立てる燃え盛る魂のように熱せられたフライパンが不安定に揺らめく。
とっさに立ち上がり柄ごと奴の手を押さえた。
「こぼすだろ」
「……悪ィ」
そう言いながら奴は見慣れたデカイ皿に中身を移して、フライパンをコンロに預けた。
それからこちらに向き直りウダウダと文句を垂れる。
「テメェなあ!! 何の修業か知らねーけど、いきなり居るとビビるだろ!!」
「テメェの鍛練が足りないだけだろーが」
「んだと、コルァ!!」
いつも通りに諍いが始まる。
これで良い。
一人舞台に見惚れて声を掛けそびれただなんて、決してバレてはいけないのだ。
20060320
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