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潮に負けじと、土と緑の匂いに満ちた無人島に立ち寄った。
船番を兼ねて後部甲板で鉄輪の付いた金属棒、通称・串団子を振っていると、オヤツと飲み物を運んで来たコックが言った。
「おれ、明後日誕生日なんだ。何かくれ」
こちらに白々しく差し出された手の平へ顔をしかめる。
「何だそりゃ」
「じゃあ寄越せ」
「おい……。何でおれに言うんだ!?」
「何となく」
おれの顔から、ビキッと血管が浮き出る音がした。
「テメェにくれてやるモンなんて有るかッ!!」
怒鳴りつけながら串団子を振り回して追い払えば、奴はゲラゲラ笑いながら身軽に逃げる。
奴が船に乗って大分経つのに今だに良く分からない。
オヤツを口に放り込み無心に串団子を振り続けて、不意に気付いた。
(肉を狩って来い、って意味か? どれだけ遠回しなんだか)
「迷子になるなよー」
ざっと汗を流し、一眠りしてから出掛けに奴の余計な一言で送り出されつつ、探索を始める。
小さなワニや鳩、少し育った鼠などを捕まえつつデカい獲物を探し分け入れば、臭くは無いが匂いの強烈なギザギザした葉っぱを踏んだ。
軽くムカつき、その辺に群生している同じ匂いの草を腹巻に入るだけ詰めて、コックの欲しがった誕生日プレゼントにした。
小さな島には小さな獲物しか居ないようだ。
傾ぎ出した太陽が既に、空を茜色に染め上げている。
意図せずにあちこち寄り道しながら真ん丸の月が真上に昇る頃、ようやく船に辿り着いた。
おれがラウンジに入った途端に振り向いて奴は言う。
「随分草くせェな」
獲物をテーブルに置いて、汁で黒ずんだ腹巻から萎れて半分程の量になった草も取り出した。
「こっちは誕生日プレゼントだ」
「ヨモギか?」
しなしなした草を鼻に押し当てるコックの姿は少し滑稽だ。
コックが折った細い茎から広がる芳香と共に、背中をどつかれた。
「ゾロ、でかした! 明日のオヤツは草餅にしよう! 少し足りないから生えてる場所教えろ!」
「おう」
あまりにも朗らかに笑うから、半ば嫌がらせで摘んで来た事なんて、頭から勢いをつけて何処かに飛んで行った。
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