満月の夜に

満月の夜は夢見が悪い。
満月の光に照らされて俺の手にこびりついている紅色の罪が暴かれてしまう。
きっとこんな汚い俺を満たしてくれるのは酒と女と任務だけ。
今日も汚い俺の手に抱かれて喜ぶ化粧くさい女を誘われたから抱いてやる。
汚くてもイイなんて、俺を真剣に見つめてくる女の中に見える打算と情欲に反吐が出る。
「カカシさん?」
不穏な空気でも感じたのか、隣の女がすり寄ってくる。裸の上半身をまるで恥じらうかのように隠しているのに、ご自慢の美脚はさらされたまま。誘っているのだとわかるその態度に嫌気がさした
「ごめん。緊急招集だ・・・」
この女も昼間は忍。
こう言えば引き留めようはない。
あぁ残念そうな顔しないでよ?
「大丈夫?旦那にも子供にも内緒にしとくよ・・・」
「!!」
俺が知らないとでも思ったのかなぁ・・・どう見ても左の薬指は右のそれより細いし裸の体には妊娠線、ついでに体中の傷痕がもとは戦闘をこなす忍だったことを如実に語っているにも関わらず今は内勤の事務職。そういう女はたいてい小さな子供がいる・・・
驚きを隠せないとでも言うように茫然としているからそのすきにさっさと部屋から出た。忍服ににおいが染み付かないようにさっさと脱いどいて正解だったみたい。


満月は嫌いだ。
家路につく道を明るく照らして影を作るから、寄り添う人がいないと俺の影はさみしそうだ。夢見の悪い日に一人で寝るのはもっと嫌い。でも、きっとこんな時間に相手をしてくれる奴なんていない・・・イヤ。相手をしてやりたいと思う奴が俺にはいない。一人はいやだけど、他人もいやだ。行きずりだったり店だったりが一番楽であったかい。それは打算や欺瞞が見えるのが当たり前のコトだから。


「うぅ・・・カ・・・カカシ・・・せんせ・・・」
思考の波におぼれてた俺をすくい上げたのは俺の生徒・ナルトだった。ひどく泥だらけでひどいけがだった。あわてて正気に戻った俺にナルトがけなげに「転んだ」って言って笑った。笑ったら切れてる口角が痛いだろうにあわてる俺を安心させるためだけに笑った。キレイだね?どうしてこんなにきれいな存在を殴ったりできるのだろう。俺はこの存在に触ることすらできないのに・・・
でも、今は触らないといけない。こんなつらそうな状態で立たせてたら消耗しちゃう。
「ナルト・・・緊急時だから抱っこさせてね?」
いつものひょうひょうとした言い方をあえてして、ナルトを抱っこして俺の家に連れてくる。


「さ、傷を見せて?」
ナルトの服を脱がしにかかったら「大丈夫っ」って曖昧に笑った。きっと九尾の力で既に回復してるのかな・・・痛くないなら良いよ。
「カカシ先生は俺に触るのいやなのかと思ってた」
ナルトが唐突に切り出した。この子はいろんな感情に敏感で卑屈だから、きっと俺の態度はそうみえたんだよね。
「違うよ。ナルトはきれいだから、汚れた俺が触ったら汚れちゃうかもって思ったら触れなかったんだ。」
包み隠さず眼をみて話すと、ナルトは素直に信じてくれる。
「・・・カカシ先生はキレイだってばよ?俺ってばこんなに砂だらけだけど・・・」
そういうんじゃないよって笑うと、素直なナルトの頭が混乱しているみたい。
「俺の手は紅色なんだ。何十何百って命の色をしてるんだよ・・・」
手甲を外して見せれば、「そんな色してないってば」ってマジマジとみてきたから俺の手によって殺された人の事を少し話してあげた。俺の罪を知って俺を恐れてくれればいい。汚さないで済むのであれば、俺はそれでいい。
「・・・カカシ先生はそれでもキレイだってば。たくさんの命を奪った分、たくさんの命を救ってる。たくさんの罪をカカシ先生達が背負ってくれてるおかげで俺たちは生きてる。大丈夫だってばよ?俺ってば、キレイなカカシ先生が大好きだってば!!」
そう言って頭を撫でてくれたナルトを無理やり組み敷いて泣きながら囁き続ける
「大好きだよ・・・お前を汚しちゃう俺を許して・・・」
許して
許して
汚い手で触る俺を・・・



目が覚めたら全裸の俺は全裸のナルトを腕に抱いて寝てた。
満月の夜なのに、なんてすっきりした目覚めなんだろう。
なんとなくナルトを抱きしめてる手が外せなくて、そのままの体勢でナルトをみればきれいなままで俺の腕の中で爆睡してた。汚れてない・・・
「・・・カカシせんせ・・・おはよ」
俺がゴソゴソしてたからか、ナルトが目をこすって起きた。
「ごめん、起こしたね?」
そっと背を叩いてもう一度夢路にいざなう
「・・・俺ってばカカシ先生が触っても汚れねぇってばよ・・・それに・・・先生に・・・その・・・してもらって・・・嬉しかったし・・・その・・・その・・・俺ってば・・・先生が・・・」
「俺はナルトが好きだよ。だから、汚したくなかったのに・・・でも、ナルトは今朝もきれいなままだね」
「俺はカカシ先生はきれいだと思ってるから、汚いとか、汚れるとか考えるのはもうやめろってば。もしまだ思うなら、俺に触ったらきれいさっぱり消えるって思えってば・・・そんで・・・その・・・いっぱい触ればいいだろ!!!」
最後はやけくそで叫んだナルトの言葉通り、しっかり抱きしめて真っ赤になってる耳にキスをして、俺は目を閉じた。満月の夜なのに浮かぶのはナルトの笑顔、真顔、横顔。ついでに艶姿も・・・
もう満月は嫌いじゃないよ?
電気が嫌いなお前の姿を月あかりで照らすのってキレイで大好き・・・


  FIN

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