笑顔(ナルト死・暗め)

俺はいつでも、待ってるんだ。
だって、俺にはいないから。俺には、あの愛情以外はなにもいないから。
いつも笑顔で俺にほほ笑む。あの人だけいれば、俺はひとりぼっちじゃないんだ。
明日のあの人の笑顔に会うために、俺は人形になるんだ。
「お前のせいで!!」
毎回毎回同じことをいう大人たちの拳も、鳩尾に入る脚も、鋭くささるクナイも、人形の俺には痛くないんだ。こんなの俺の日常だし、こんなの全然平気なんだ。
イタクナイ
イタクナイ
イタクナイ
そう思っていると、おれが意識を手放す頃には大人たちは去っていくんだ。
おれは、目が覚めたら、いつものようにいつものスーパーに買い物に行って、買い物して、レジで乱雑に扱われた商品と他の人より少ないお釣りに丁寧にお礼を言って、鼻歌交じりに帰るんだ。俺は、明日のあの人の笑顔に「今日も元気だな」って遅刻してきたあの人に笑顔で言われるんだ。
あの人は、きっと俺のクライ部分なんて知らない。知らなくていいんだ。
俺は明るくてバカでドベでいいんだ。
あの人の笑顔が俺の栄養なんだ。
いつもの朝の挨拶が、俺には栄養なんだ。
「ナルト?」
俺のことはほっておいて。お願い。今は気づかないで。汚い俺なんて知らないで。
イタイ
イタイ
イタイ
イタミヲシッテ・・・
オレヲタスケテ・・・
あぁ・・・普段は足音なんてさせないあの人がこっちに走ってくる。もうダメだ。
そりゃそうだよな。里でこんな金髪は俺だけだし、こんなジャージも俺だけ。
もうダメだ。
キタナイオレがあの人の目に触れるんだ。
「ナルト!!大丈夫か!?今病院に連れてくから」
俺を抱える手が汚れちゃう。
「カカシせんせ・・・俺、ほっとけば治るってば!!」
明るい俺を見て
クライ俺を見ないで
キタナイ俺に触らないで
あんたの笑顔を汚したくない。
同情
嫌悪
困惑
疑念
そんな汚れた笑顔みたくないんだ
「ナルト・・・体の傷は消えても、心の傷は消えないよ。泣いていいよ?俺はナルトの味方だから」
あぁ・・・俺の大好きな笑顔が汚れてしまった。
そんな、イタイタシイ笑顔はいらない。
どうしようもない落ちこぼれでも明るい俺でいられれば、あんたは笑ってくれると思ってた。もうダメだね
「大丈夫だってば・・・えへへ・・・」
嗤う俺の顔は、俺には見えないけど、きっと強張ってるね・・・
「だってナルト・・・お前の腹・・・すっごい血が出てるよ?口からだって・・・ナルト・・・痛いよね・・・ごめんな。俺がもっと早く気付いてれば・・・ごめん。」
俺に笑顔をくれた人は、泣きながら笑いながら、必死に家々の屋根を走る。
そんなになかないでよ。
俺はあんたの笑顔が好きだったんだ。
「カカシせんせ・・・笑ってってば。俺ってばカカシせんせの笑顔大好きなんだ」
無理に笑ってくれたその笑顔は、なんだかちょっとてれくさかったけど、うれしいな。
もうなんか、疲れたな。このまましばらく眠って、きっと起きたらカカシ先生に怒られるんだろうな『忍者なら受け身くらいとりなさい!!』って・・・




「ナルト?」
走る俺の腕の中で、ナルトがきれいに笑った。
「カカシせんせ・・・笑ってってば。俺ってばカカシせんせの笑顔大好きなんだ」
笑えるわけがない。それでも、笑わなくちゃ。ナルトの最期にみるものは俺の笑顔でいいんだから・・・でも、俺は必死に走る。すぐそこの病院が遠い。そもそも俺が悪いんだ。一瞬目を離したらナルトを見失った。
たまにナルトの気配をまったく感じなくなる時がある。そういう時は大抵、里人の暴行にあってる。
今日は、感じないナルトの気配を探ってたら、血のにおいがした。腹部から血を流して倒れてるナルトを見た。もう、助からないのはわかってた。血の量と、チャクラの流れが、ナルトの最期を物語っていた。それでもあきらめたくない俺の腕の中に揺られて、ナルトが俺に言ったのは「笑って」だった。俺も、ナルトの笑顔が大好きだよって伝えようと思ったら、ナルトは静かに、永遠の眠りについていた。
ナルトが世界からいなくなって、世界はかわった。
里はそこはかとなく明るく、ナルトの死を悼むのは少数に過ぎない。
そっと、密かに祝杯をあげる声すら聞こえる。
もう、こんな世界はいらない。ナルトが生まれ変わってきたときに、心から笑える場所にするには、オマエラナンテイラナイ。




ナルトの死から数日後、木の葉隠れの里は滅びた。
大量の火と、強烈な突風、暗部すら消滅しているその痕跡から他里の忍は九尾の暴走とみているが、なんとか逃げ伸びた人々はみな一様に『鬼を見た』と証言している。
里のすべてを燃やしつくし、里の忍をほぼ燃やしつくした炎であるが、里の慰霊碑と、たまたま遠征に出ていた数名の忍を残して鎮火した。
その後、生き残った者たちは里の燃え跡から少し離れた森の中に、忍の里を再建した。里長の名はカカシ。
ナルトの死をいたんだもの達が生き残った奇妙な偶然からあやかって、里はナルトの里と呼ばれるようになる。



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