願いがもしもかなうなら2

俺はキヨラさんの了解を得て、ナルトの病室に泊まることにした。火影様には監視任務を解かれたけど、キヨラさんの協力と、俺個人の恋人としてそばにいたいという希望が通されたようだった。
「ナルト・・・今日はお天気だよ?」
なんてことはない。ナルトが太陽のように輝いていたのは、その天真爛漫な笑顔があったから。その笑顔が、俺が機嫌を損ねるたびに顔色窺う愛想笑いに変えたのは、俺だ。いつから、俺の顔色窺って話すようになったんだろ。思えば、俺が一番なんにもしないであろう時間に、なんにもするわけでもなく訪れて、俺が行動し出すとともに帰っていたナルトは、それでも俺といたいと願っていたのかもしれない・・・そんな可愛い心を打ち砕いたのは、俺。どうしようもできないクズだ・・・ナルトの前で女と出かけたこともあった。ナルトに触られて瞬間に払いのけた事もあった・・・それでも、俺が別れを告げなかったのは、きっと根底にこの気持ちがずっといたから・・・ナルトが好きだ。きっと、俺が思っている以上に俺が子どもで、好きな子にいじわるしたり、嫌がることして気を引いてたんだ・・・俺。でも、そんな心が純粋で、なんにも知らないこの子をズタボロにした。体を拭いてあげる時に、改めて見てみるナルトの体はひどかった・・・首筋や左手首の傷は幾重にも重なって、九尾の回復力すら追いついていないような状態で、酷いところは膿んでいた。丹念に巻かれた包帯をはずして、替えの包帯を巻く腹部は、さらにひどく傷跡が刻まれていた。きっと何度となくクナイで刺したんだと思う。こんな小さな子が、こうして毎日毎地に体も傷つけて、それでも俺の家に来た理由はなんだろう・・・どうして、こんなになるまで、俺のそばにいてくれたんだろう。きっと俺の想像なんて比じゃないくらいに苦しんで、苦しんで、苦しみぬいて、やっと手に入れたのが、死という答えだったのかな・・・
俺は、ナルトのなにを見てたんだろう。
ずっと一緒にいた。毎日同じ時間に、同じ場所で、窓辺で本を読む俺と、一定距離を置いて座るナルト・・・どうして、一回もナルトを見てないなんて・・・
そうか・・・
ナルトは、きっと見てほしかったんだ・・・気づいてほしかったから、毎日同じ時間に来てたんだ。あんまりにも気付かない俺に、体を傷つけてまで、俺の目を・・・
でも、そんなことしても俺が見ないから・・・ナルトは、あきらめてしまったんだ・・・



それからずっと、休暇申請の終わった後も、ナルトは一向に目覚めなかった。
キヨラさんの話では、峠を越えて、落ち付いてきたようだとのことだったけど、俺は第7班には影分身で任務に参加して、本体はナルトのそばに残った。
どんなにつらくても、ナルトのそばにいようと決めた。
「ナルト・・・今日は雨だよ。任務は途中で中断。明日続きをやることになったよ。」
なんの事はない会話。答えの帰ってこない会話。
「梅の花が咲いてたんだ」
「やかんのお湯をこぼして、サクラに怒られちゃったよ。」
「今日は、いつもより寒いね・・・」
「・・・・・・ナルト・・・俺・・・ごめんな・・・俺、なんか、ナルトはずっとそばにいてくれると勘違いして、俺がなにしても怒んないから、ちょっと、調子に乗って遊んで・・・傷つけて、ごめん・・・」

「戻ってきてよ・・・」

俺の懺悔なんて関係ないみたいに、ナルトの心音を図る機械は一定のリズムで音を刻む。ナルトの体温を測る装置も、脳波を図る装置も、なにごともないように刻む・・・
俺の声は、ナルトに届いているのかな・・・。


「届いています・・・正確には、とどいていると、信じています。」
単刀直入にキヨラさんに聞いたら、帰ってきた答えはこんな感じ・・・
「あの・・・今のナルトの状態としては、どんなかんじなんですか?」
俺にも比較的専門的な医療の知識はある。忍の基本として、自己管理や、怪我の治療、仲間の状態把握などの事を考慮したうえで、ある程度の知識は備わっているのだが、俺の目から見て、ナルトの状態がまったくわからない。なぜ目覚めないのか、なぜ動かないのか。
「身体的な部分では、ほぼ完治しています。ナルト君が切った腹部も、すっかりよくなっていますし、その時にうしなった血液もすでに充填されています。内臓の傷も、ほぼ完治したと言ってよいと思います・・・ですが・・・」
言葉に詰まったキヨラさんに、俺は先を促した。聞かされない事があるのが、怖い。ナルトの状況は、全部知っていたい。
「ナルト君は、今ゆっくり自殺しようとしています。目覚めないのは、死にたいからだと思います。ナルト君の体内に送り込んでいる養分は、そのほとんどが吸収されずに排出されています。意志とは別の部分で形成されているはずの本能の部分で、本来であれば養分は吸収してしまうはずなのに、ナルト君の体は、栄養を拒絶しています。」
俺にとって、その宣告はまるで己の犯した罪の罰を言い渡されているようだった・・・

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