願いがもしもかなうなら1

「ナルト・・・そろそろ帰って」
いつのころからだろう。カカシ先生が俺を邪険にするようになったのは。いつからだろう。俺は恋人のはずなのに、こんなに大好きなのに、触れれば嫌な顔をされて、他の女には容易に触れさせて触れるようになったのは・・・いつからだろう。こんなにも、自分を不要だと感じるようになったのは・・・
俺は、さっさとカカシ先生の家から出る。履きなれた靴すらまどろっこしい。あんなカカシ先生の目は、もう見たくない。
どうしてこんなにも、まるで里の大人だ。カカシ先生も結局は里の大人だったんだ。俺の好きに好きって言ってくれたのは、俺をこんなにも絶望させるための布石だったのかな。
「じゃ、カカシ先生・・・バイバイ」
こっちを見もしないで、さっさと帰れとばかりに手だけ振るカカシ先生に心からバイバイする。もうこんな気持ちいらない。もう、カカシ先生なんて、いらない・・・





「じゃ、カカシ先生・・・バイバイ」
なんとも子どもじみた笑顔で、俺に手を振るナルト。可愛くなくなったわけじゃない。でも、そこらへんにいる面識もない他人よりは大事だけど、それ以上でもそれ以下でもない。付き合いだしたころなんて、すっごい可愛くて大事だったのに、どうしてこんなにも俺の心は移ろってしまったんだろう。
毎日、同じ時間に俺の部屋に来るナルト。合鍵を渡してしまった事をいまさら後悔しつつも、別になにをするわけでもない・・・
そろそろ夕食の時間だし、いつまでもいられると一緒に飯とか喰わなきゃだし、面倒だから、さっさと帰した。いつもの時間にいつものように追い返す。今日だけは、なんだかナルトの様子が違ったけど・・・なんだろう。いつもなら悲しそうに帰るのに・・・俺がちょっといじめると、さみしそうな顔をするのに、なんで今日は笑ってたんだろう・・・


その理由を知ったのは、翌日・・・
「バカモノが!!!!お前は監視任務をなんだと思っておる!!ナルトに生命の危機が及んだら助けるのも任務のうちであろう!!」
火影様に怒られても、俺にはわけがわからない。開口一番に怒られても、俺はなんにもしてないし・・・
「・・・火影様。まずは状況の説明からしなければ・・・」
側仕えの忍が横から口をはさんでくれて助かった。俺ってわけもわからずに怒られるのとか嫌いなんだよね・・・
「・・・ナルトが、自殺した。」
簡潔な一言だった・・・
あぁ、そうか・・・ナルトは自分をあきらめたのか・・・だから、あんな風に笑って。普段は言わないバイバイなんてらしくない言葉を放ったのか・・・
「どうして・・・」
でも、おれにはわかならい。どうしてそんな、死ぬほどのことだろうか?俺は。別になにもしていない。ナルトには、イルカさんとか、同期の連中とか、俺の他にもいるじゃん。どうして、どうして自分で自分をあきらめちゃったんだろう・・・
「ナルトは死んではおらん。意識が戻り次第、聞いてみるといい。ただし、もうカカシ半には戻さん。お前の監視任務も解く。ナルトは、これより暗部の監視下に置く。」
火影様の言葉に、ホッとするのもつかの間、すぐにその言葉の重みに気づく。
「俺は、ナルトのそばにはいられない・・・と・・・」
べつに、そんなにショックなことではないはずなのに、汗が止まらない。心臓が痛い。
「カカシ・・・ナルトはな、イルカに色々と相談しておったそうだ。里の大人の事も、お前のことも・・・ナルトは、お前の目が怖かったそうだ。お前の目が、里の大人のそれと同じになってきたと、毎晩泣いて、食も睡眠もとらず、ずっと嘆いて嘆いて嘆いて、あんなにやせ細ってしまうまで、苦しんで、そして、死を選んだ・・・そばで見ていて気付かんかったか?あの異常なまでの細さ。くぼんだ目。空虚な瞳を・・・」


それから、火影様直属の医療忍者が指揮する特別な建物に通された。
そこで、まるで眠るように、でも体中に器具を取り付けたナルトがいた。
「カカシさんですね。火影様から、伺っています。状況をお話します。こちらに掛けてください。」
医療忍者と思しき女性にそっと差し出されたイスに座ると、ちょうどナルトの顔が見える場所だった・・・
「私は、暗部付き医療忍者・キヨラと申します。これから、ナルト君の主治医としてここに駐在します。まず、ナルトさんは非常に危険な状態です。ただでさえ衰弱が激しいところへ、どうも日頃から自殺未遂を繰り返していたらしく、左手首にクナイと思われる傷。左胸にも同様に・・・そして、首には刺し傷、切り傷、締痕。なぜ気付かなかったのですか?もう少し早くに気づいていれば・・・」
俺は、いつからナルトを見てないんだ?どうして気付かなかったんだ?俺の目は、ナルトにどれだけの苦しみを与えたんだろう。
俺はただ、ナルトが側にいることに甘えてたんだ。どんなに邪険にしても側にいてくれると勘違いして、好き勝手して、思い通りにならないことは全部ナルトに当たって・・・どっちが子どもだよ。まだ幼い恋人に、なんてことしたんだ、俺。ナルトはきっと裏切られたとか思うよな。好きだって言ってた俺が、里人と同じような扱いを『しちゃったんだもんな。ごめん。俺、馬鹿だった・・・もう一回、やりなおさせてよ?今度は、見い失わないからさ。
「ナルトは・・・目覚めますか?」
目を覚ますならなんだってする。どんな物だって揃えてやる。
「・・・正直、なんとも言えません。生きたいと思う意志があれば、人間というものは本来強いものですが、この子はもう、ずっと前から生きたいと言う思いがなかったようです。食、睡眠をとらずに、肉体と九尾のちからを弱らせてからの自殺は、相当前から考えていなければできません。そうなってしまうと、人間は弱いものです。」
俺がナルトを弱らせた。あんなにかわいいと思っていたのは、この子が輝いていたからだ。この子の輝きを奪ったのは俺。太陽の似合うこの子を、こんな管だらけのくらい部屋に閉じ込めたのは俺。俺の子供っぽい心が、こんなにもナルトを追い詰めた。
「火影様には私から伝えます。カカシさん・・・なるべくこちらに来て、ナルト君に話しかけてください。意識がなくても、声は聞こえているはずです。」
そういって、席を立ったキヨラさんは、そっと俺にほほ笑む。
「わかりました。」
俺は、家にとっかえして、服とか、身近な最低限度の一揃えと、長期休暇申請をだして、ナルトのいる部屋に戻った。


    

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