カカシ、すごむ

「見て!!化け物がこっちに歩いてくるわ」
「カカシさんも一緒よ!?」
「・・・里の英雄があんなのと一緒なんて・・・取り入って妖術をもらったんじゃないのかしら?いくら車輪眼でも1000の技をコピーするなんて人間とは思えないわよねぇ・・・」



里の奥様方のささやく声が聞こえる。
いくら抑えても、カカシもナルトも忍である。周囲の声など聞こえないわけがない。
それでも、カカシは無視を決め込んでいるので、ナルトも習って無視をする。
里の忍が聞いたらきっとあの奥様方は非難の的になるであろう。里の誉れであり、その技の素晴らしさは忍であればだれでも憧れる、一部からはまさに現人神な扱いであるカカシにそのような言葉をかけるなど、忍であればまったくありえないことなのである。

それでも、カカシはそんなもの気にしないし、気にするほど社会に興味もない。
一方でナルトは己のせいでカカシが里に嫌われては困るとばかりに、次第にゆっくりと距離をとって、離れていった。
「ナルト?」
徐々に遅くなる足にカカシが気付き、ナルトを振り変えれば、ナルトは泣いているかのように肩を震わせて、ニコリと笑う。
「カカシ・・・ちょっと俺忘れ物とりに行ってくるってば!!先にシカマルの家に行っててくれってば!!」
そういって足にチャクラを溜めて、民家の屋根を走り去ったナルトを、カカシはなんとも言えない表情で見送った後、


「・・・マダム。ナルトが傷つくので、ああ言った陰口はやめていただけますか?」
井戸端会議を続けていた奥様方に、鬼のような形相とチャクラで脅し、ナルトを追いかけて自宅に戻った。
しかし、ナルトの影はない。
忍犬たちに聞いても見ていないという。
「ナルトを探して!!」
広い邸宅ではあるが、ナルトの行く場所は決まっている。放し飼いの忍犬たちも、ナルトの行方は分からないとばかりに庭をスンスンにおいをかいで、カカシが指示したように必死で探している。パックンが言うには、
「門をくぐったのは見た」
のだそうで、門番代わりのパックンがナルトが出ていった姿を見ていないのであれば、つまりは帰ってきているし、出て行ってもいない、、、はずなのに、どこにもいない。
リビング、寝室、ベッドルーム、屋根裏のプライベ―トルームまで、どこにもいない。チャクラも故意に消してある・・・
「ん〜・・・一人になりたいのかねぇ?」
カカシはカカシなりに余裕がないのではあるが、ひとまずは落ち着くべく、一人ごとを喋りながらトトト・・・っと、自室に入る。
『ガチャ』
・・・ドアが開かない。灯台もと暗しである。まさかカカシの部屋にいるとはおもってもみなかったカカシであるが、ドアにはかぎが掛かっているし、うっすらとであるが、隠し切れていないナルトの気配がある。
「一人になりたいのかな?」
ドアに背を預けて、ドア越しの会話を試みるカカシに、背後の部屋の中で空気が動く気配がする。きっとうなずいたのだろう。
場所さえわかってしまえば造作もない。カカシはその場に影分身を残し、自分は窓の方へ移行する。
忍といえどもまだまだひよっこのナルトは、影分身であるとは気付かずにそっとドアに背をもたれさせてドア越しのカカシの感触にそっと寄り添う。


「ヒック・・フゥゥ・・ヒックゥ・・・」
小さくしゃくりあげるナルトは、カカシがすっかり外にいると油断しているようで、カカシの部屋にあるクナイ自分の首に押しつける。
「カカシ・・・俺、幸せだったってば。こんなに好きになれて、好きって言ってもらえて本当に幸せだったってば・・・だから、どうかカカシも幸せになって欲しいってば。ヨウコさんも、イルカ先生も、シカマルも、アスマ先生も・・・俺にかかわったみんなが幸せになって欲しい・・・」
さよならの言葉を小さく紡いで、ナルトはクナイに力を入れる。
「はい。そこまで」
背後の窓から侵入してきたカカシは、ナルトの手から奪いとったクナイをいったん遠くに投げる。
「ダメでしょ?俺を不幸にする気?」
カカシの声はいつもどおりなのに、忍犬すらおびえる怒気をはらんでいる。
「・・・」
「ナルト?こたえて?俺を不幸にする気だったの?」
「・・・」
「ナルト・・・答えなさい・・・」
カカシの声が次第に低くなり、完全に怒っていることを隠さずにナルトを正面向かせる。
「・・・だって・・・」
カカシの目を見た瞬間にナルトが泣きだす。カカシの顔は完全に怒っているのに、その目は慈愛に満ちているから。ナルトが好きなのだと、目が語っているから。
「だってカカシが俺と歩いてるだけで、不幸になっちゃう・・・」
ナルトがグスグスと泣く声に、カカシは「こんなことだろうとおもったけど・・・」なんて、想像していたのに停められなかった自分に若干のイライラを感じながら、ナルトを抱きしめる。
「俺はお前がいない方がずっと不幸なんだけどなぁ・・・」
耳元で囁くようにナルトに告げれば、泣いて赤らんだ顔がもっと紅くなる。
「俺ってば、存在がみんなを不幸にしてる自覚あるってば!!!」
「自覚なんてよく知ってたね?」
カカシは茶化すようにして笑顔でナルトの顔を覗き込む。
けっして誤魔化しているわけであない。ただ、カカシにとってはそれがまったく無意味なことなのである。ナルトの自覚など知ったことではない。己が不幸な理由がどこにある。カカシは、ナルトに説いた。不幸なわけがないと、自分はナルトが入ればいいのだと・・・



「お邪魔かのぉ?」
唐突にドアから入ってきたヨウコに、まったく油断していたカカシはナルトを抱えたまま向き直る。
「・・・ヨウコさん!?」
「そなたらが遅いので向けに来た。すまんがさっさと来い。そなたらのせいで我の愛しのイルカが心配しておる。」
少々キレ気味のヨウコに気圧されてさっさとアスマ邸に向かうカカシとナルト。
その道すがらには、放心している主婦の皆様・・・
「カカシ・・・なにしたんだってばよ!?」
カカシはあいまいにわらってその場を後にした。



「ナルトを不幸にしたら俺がゆるさないんだもん!!」
「もん!!じゃないってばよ!!」
アスマ達がBBQに誘ってくれて、家の庭でジュージューと良い音させてる横で、カカシとナルトはプチ喧嘩中・・・


それを見てみんなはうれしそうに笑っていた。
それは楽しそうに、うれしそうに、わらっている・・・

          FIN




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