ヨウコさんイルカに出会う2

おもむろに床に座り、「座りや」と自分に椅子をすすめる九尾の狐にイルカは困惑する。己のしる九尾は凶悪で醜悪で、もっと恐ろしいものであったはずである。
しかし、今目の前にいるのは細い細い美しくも儚い印象の女性なのである。
大きな耳と多くの尻尾が人外であることを教え、そでが九尾であることを主張しているにも関わらず、イルカはなんだかその者にクナイを向けている自分に罪悪感を覚えた。


『カチャン・・・サー・・・』
イルカはクナイをしまうと医務室のドアに鍵をかけ、カーテンを引いた
「誰かに見られるのはまずいんでしょう?」
イルカはヨウコの横の床に腰を据えた。
「あなたはなんなんですか?」
「我はナルトの中にいる九尾の狐の思念体じゃ」
イルカは注意深くヨウコを観察しつつも「やはりかの狐なのか・・・」と、しまったクナイに手をかけつつ、会話を探す。しかし、口を開いたのはヨウコであった
「我はナルトが可愛くてのう・・・あれは我の吾子じゃ。いつもいつも虐げられて、死にたいと願うナルトが哀れでのう。助けたいと思うたれば、ナルトに語りかけておった。我の問いにナルトが応えたのゆえ、外界とのつながりを持った我は、この姿で外に出て気やった。」
イルカは下を向く。死にたいと願ったナルトを助けてくれた存在は、あまりにも悲しげに自分にほほ笑む。
「そなたはナルトにも優しかったが、ナルトを守ってはくれなんだ。そなたがナルトを守っていれば、我に応えずともナルトは救われたのじゃ・・・」
痛い一言だった。イルカとてナルトが里中から嫌われているのも、虐げられていたことも知っていたのに、何もしなかった。その結果が、九尾を呼び覚ますことになろうとは思いもしなかった。
「まぁ、いまではカカシが全力でナルトを守っておる。おそろしいほどの執着じゃがのぅ」
「そうですか・・・カカシさんは今ナルトのそばに?」
「そうじゃ。ナルトのそばにおる。」
「それであなたが代わりに任務を?」
こくりとうなずくヨウコは「油揚げ買ってくれるのでのう」と小さな声で呟いた
「油揚げのためにあんなハードなことやってるんですか!?」
受付でもさすがは忍者。聞き逃すことなく突っ込んできた
「だって油揚げはなかなか手に入らない品物で、カカシだから売ってくれるものなのであろう?カカシがいっておったぞ?一般人では手に入らないと・・・」
実は完全にだまされているのである。どこのスーパーでも買えるが、そんなことをヨウコが知るはずもない。
イルカはさっきまで手にしていたクナイから手を離し「何やってるんだカカシさん・・・」と、床に手をついて苦笑い
「そういえば、あなたの名前は?」
ちょっとした衝撃から立ち直ったイルカは今度はヨウコの目を見て本当にほほ笑んでくる。案の定頬笑み返してしまったヨウコは
「ナルトが我に『ヨウコ』と名付けたので、今はヨウコじゃ。」
「ナルト・・・九尾の妖狐にヨウコってどうかと思うぞ?」とか突っ込みを心の中で入れつつ、
「ヨウコさん。油揚げはスーパーとかで比較的手ごろにかえますよ?」
ヨウコは目から鱗とでも言うようにびっくりしている。イルカはなんがか可愛いその仕草に『ドキン』とかいう心の高鳴りを自覚しつつ
「今度うちにきませんか?お稲荷さん作るの得意なんですよ」
コクコクとうなずき、冷静を装うように扇で顔を隠すヨウコであるが、尻尾が上機嫌に揺れて、耳もピコピコとはねている。嬉しいがあふれている光景にイルカはにこやかにヨウコを見ていた。



その数分後、血相変えて医務室の戸をたたくカカシに、ドアのカギを開けて招き入れたイルカが、天下の上忍に対して「嘘はいけません」とか、「任務は自分で行きなさい」とか、アカデミーの先生時代を彷彿とさせる説教をし、カカシを縮こまらせたのは言うまでもない・・・


                       FIN


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