「この子達足細すぎー」 「だよねー顔もいい子いっぱい居るし」 「この子達になりたいよねー」 「わかる!」 なんて、みんなで雑誌を開きながらそんな言葉を呟く。 いいな、こんな脚。 細くて長いし。 私の脚なんて太くて形も筋肉で出っ張ってて変だし。 モロ部活してる脚だ。 この輪郭だっていいな。シャープだし。 私なんて丸顔で二重あご万歳だ。 しかも、ニキビも結構な頻度で出来るし。 こんな茹で卵みたいな肌になりたいよー。 こんな括れた綺麗なお腹になってみたい。 私なんて括れなんて皆無でお腹出てる。 まだ高校生だから某ダイエットサプリメントのCMのようにぶよぶよ贅肉とまでは行かないけど、胃が出てんの、胃が。 簡単に言えば幼児体系。 ああ、某ゼリーのCMようなお姉さんになりたい。 私もあんな括れてへっこんだお腹だったら喜んでフラダンス踊ってあげるよ。 とにかく、私がこのアイドルに勝てるものなんて一つもないってこと。 あーあ悲しいなこんちきしょー。 こうやって一緒にアイドルを羨ましがってる友達だって私より断然可愛い。 ほんと、容姿だけはどうにもなんないな。 はあ、と溜息をついてるとそうだ! と友達が声を出した。 「ねえ、猿飛君とか真田君に聞いてみようよ」 「なにを?」 「この中で誰がタイプかだよ」 「えー」 「なまえ、なにが気に食わないわけ」 「別に気に食わないわけじゃないけど」 「じゃあ聞いてみようよ」 何でこんなにノリノリなんだ。 この中でタイプを教えてもらったら余計劣等感が溢れるだけじゃん。 どう頑張ってダイエットしてもこの子たちにはなれないんだからさ。 まあ、目標は出来るだろうけど。 「あれ、真田君いないじゃん」 「どうせ伊達君のとこじゃないの?」 「えー仕方ないな。私は真田君のが知りたかったんだけど」 どうせ、この質問真田君にしたら顔真っ赤にして逃げるから答えてもらえないでしょ。 ってか、答えられないよ。 あの人女になんか興味持ったことなさそうだし。 タイプとかないだろうな。 「しょうがないからなまえのために猿飛君に聞こっか」 「は!?」 聞き捨てならないんだけど。 私がなんで猿飛くんのタイプ聞きたがってるって分かるわけ!? つーか、聞いたら余計落ちこむっつーの! 「やめ……!」 「猿飛くーん!」 最悪だ。何で呼ぶんだこの馬鹿。 友達やめるぞ。 ああ、ここで思いっきり聞くな! って怒ったら敏い佐助君には想いを寄せてることが分かっちゃう。 くそ、しかたない。 ここは静かにしておくべきなのか。 「なーに?」 「ちょっと聞きたいことあるからこっち来て」 「はいはい。なんの用?」 うわあ、佐助君が近くに来てる。 やばい、心臓爆発する。 「ほら、なまえ聞いてみなよ」 「え!? 私!?」 「うん」 くそ、まじか。 てっきりあんたが訊くと思ってたのに。 予想外ででかい声出しちゃったじゃん。 けど、ここで、私が取り乱したら佐助君にばれるかもしれない。 あくまで冷静に。 事務的に訊けばいいんだ。 大丈夫、いける。 「この中の女の子で一番タイプなのどれ?」 よし。 いい笑顔だったはずだ。 ただの興味本位で訊いているって思われてるはずだ。 「んーどれかなあ」 「猿飛君ってさ、こういうフリフリの服好きでしょ」 「まあ、どっちかというと好きだなあ。こういう髪とかも好き」 猿飛君が指したのは、フワフワに巻いた長い髪。 うわ、私と正反対。 髪の毛超痛んでるし。 ってか、こんな髪型似合わない。 しかも、フリフリの服なんて私着たことない。 もし着たことあっても、それは幼稚園時代の何着ても可愛らしいって言われる時代だけだ。 今こんなの着たらみんなに苦笑いされること確実だ。 着れない。 みんなに引かれる。 友人よ、よくもまあ私を傷つけてくれたな。 思わず出そうになる溜息と涙を必死で引っ込めて黙って俯く。 目線の先の可愛い女の子達はにっこりと人の良さそうな顔で笑ってる。 ああ、叶わない。 「えっとねー俺様のタイプはねー」 なんでそうやって溜めんの。 もう、いっそ清々しく私をどん底に落としてくれ。 猿飛君たちには見えない机の下で拳を作った。 「この子かな」 あれ、佐助君、なんで雑誌に指してくんないの。 この子、って言われてもどの子かわかんないじゃん。 友達は、え、え? とか言って戸惑ってるし。 そりゃ指してくんないとわかんないよね。 この子ってどの子だよってなるよ。 なんで? と思って顔を上げると、指は私を指していた。 「え、え?」 今度は、私がその言葉を発した。 え、どういうこと? なんで私を指差してんの? もしかして、目潰し? 両目じゃなくて片目? 伊達君か長曾我部君にされちゃうの? ちょ、疑問しか浮かんでこない。 「俺様のタイプはね、なまえちゃん」 「え、はい?」 にっこりと笑ってる猿飛君に口を開けたままぽかんとしてる私。そしてきゃーと騒ぐ友達。 この光景は教室内でも異質だったようで、視線を集めてる。 いま、なんて? さるとび君のタイプが、わたし? なんで? え、嘘。 「こんな子たちよりも、なまえちゃんの方が百万倍可愛い」 いや、一億倍、一兆倍かも。と私を指してた手を顎に添えた。 「だから、わざわざこの子の中の誰かを手本にして自分磨きなんてしなくていいよ」 あ、だめ心臓もだけど、脳みそも爆発しそう。 「真っ赤になっちゃってかーわいー」 語尾にハートがつきそうなくらい甘ったるい声でそう言われた後。 猿飛君が近付いてきて、ほっぺに柔らかい感触を感じた。 「き、す……」 頬を押さえて猿飛君を見ようとしたけど、耳に顔を寄せてる猿飛君はどんな顔か分からなかった。 「唇には、みんなのいないところでね」 ああ、だめ。 気絶しそう。 ってか、死にそう。 アイドルに負けないもの (猿飛君からの愛、なんて胸を張って言ってもいいのかな) [戻る] ×
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