B short | ナノ




「政宗先輩の」
「何だ」

「変態」
「そうだな」

「助平」
「そうだな」

「万年発情期」
「そうだな」

「えっち」
「そうだな」

「セクハラ男」
「そうだな」


罵っても、眉一つ動かさずにお弁当を食べ進んでいく。


「……なんで、怒らないんですか」
「本当の事だから仕方ねぇだろ」
「普通はっ……」

「卵焼き、味変えたか?」
「え?あ、はい!分かりますか?砂糖から醤油にしてみたんです」
「こっちの方が、上手い」
「ホントですか!?」


「……単純」
「はっ……!」

ニヤリ、としてやったりな顔をされて初めてはぐらかされた事に気付いた。


くっそ〜、何でこんなに誘導されやすいかな……
けど、今のは仕方ない。
先輩があたしの弁当を褒めてくれたんだから。

嬉しくて舞い上がってしまうのも許して欲しい。



「大体、何で俺を怒らせたいんだよ」
「それは……」


先輩のいろんな表情を見て見たいからじゃないですか。


いっつも、余裕でクールな先輩しか見られなくて、
私ばっかり、くるくると表情変えさせられて、悔しいから。

たまには私も先輩を振り回したい。


こんなこと言ったら、調子に乗ってまた私が振り回されるだろうから言わないけど。



「それは……なんだよ?」
「やっぱり、良いです!」
「んだよ、それ」


先輩は少し不服そうな顔をして、けどさほど気にした様子もなく、昨日から煮込んでた肉じゃがを口にした。


怒った顔とか照れた顔、見てみたいな。

まぁ、怒った顔は悪いことしたら見られるだろうけど、照れた顔は……


無理なんだろうな。




「先輩」 
「なんだ?」
「照れてください」

「無理だな」


やっぱりね。
分かってたさ。聞いただけ。


私が先輩を振り回そうなんて百万年早いよね。
分かっているけど、悲しくなってくる。

先輩、実は私の事全く興味ないとか。
だから、表情変えるのも面倒くさいとか。


そんな訳ないって分かっていてもこういうネガティブな考えは連鎖する。



「Don't worry」

先輩はお弁当を地面に置いて、私の肩を抱いた。


「俺はお前が好きだ。you see?」
「うっ……先輩、エスパーですか?」

「かもな」


そう言って喉を鳴らした。


あーもう、嫌だ。
顔が火照って仕方がない。
けど、嬉しい。



「先輩」
「今度はなんだ」


「好きです」


「……は!?」
「え?」


なにか、言っちゃいけないこと言った?
普通に流されると思ってたのに、なんで驚いたの?


先輩に顔を向けると、ほんのり頬が染まっていた。


「え、え?」
「Don't look at me!」



もしかして、これって、


「照れてる……?」
「No!」


必死で否定して、顔を逸らす先輩に少し、意地悪心が疼いた。



「先輩、好き」
「止めろ」

「大好き」
「止めろって」


「政宗、す……っん!?」

好き、という前に唇に違和感。

あ、キスされてる……。


「これ以上言うなら、今ここで犯す」
「はい!?」

「分かったな」
「は、はい……」


ぎろり、と睨まれて固まった。
本当だったら、もっと怖いんだろうけど、今回はほんのり紅い頬のせいで、ムキになる子供に見えた。



意外と純情な君
(言うのは慣れてるけど、言われるのは慣れてないんですね)
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