「で、どうすんだ?」 噂をかを嗅ぎつけた慶次は私の机に座る。 結局、返事は明日聞きます、なんて言ってやり逃げされたし。 それで、伊達君の言った明日が今日なわけで……。 「どうするって、どうしよう……」 「けど、返事は今日だろ?」 「そうなんだけど……」 「どうすりゃ良いのさ……」 「どうするって、あんた悩んでんの!?」 隣から友達の驚く声と周りから、えーありえない! なんてブーイングが私を渦巻く。 ってか、なんでコイツら私を囲んでんのさ。 嬉しそうに野次馬しやがって。 今昼休みなんだけど、弁当食べない気なの? この人達。 「みんな、向こう行って。私は真剣に悩んでんの」 「なんで悩む必要があんの!? あの有名な伊達君だよ!? 嫌いじゃないならとりあえず付き合えば良いじゃん」 「はぁ?」 付き合うってのは好き同士の男女がなるもんじゃないの? とりあえず付き合うってのは、伊達君に失礼だと思うし。 それに、私付き合うとか経験した事ないし……。 やっぱり初めて付き合う人は本気で好きな人がいいし。 そんなこと言ったら、みんなに恋に憧れる中学生かなんて冷やかされそうだから言わないけど。 どうしよう。 断るのは勿体無い気がするし、かといって好きでもないのに付き合うのは……。 「ま、なまえのしたいようにしたほうが良いよ」 「……うん」 慶次の心遣いはありがたいけど、私はどうしたら良いかわかんないんだってば。 「うー……」 頭を押さえて考えると教室がザワザワとうるさくなった。 何があったの? きょろきょろと辺りを見回すけど、みんな立ち上がっていて、座っている私は見えない。 「慶次、ドアに誰かいるの?」 「んーなまえがずっと考えてる人がいてる」 「え?」 ……ってことは伊達君!? 返事訊きに来たってこと? え、どうすんの。 まだ答え決まってないよ!? 「なまえ、あたふたしてるけどもう目の前にいるよ」 「え!?」 顔を上げると机に座っている慶次の隣に伊達君がいた。 「あの、先輩」 「な、なに?」 「昼飯、一緒に食っていいですか」 「え、いや……」 どうしよう、一緒に食べるべき? 「なまえ行ってきなって」 「慶次……けど」 「断る理由ないだろ?」 そうだけど……。 まぁ、周りのみんなを見ると、断れる雰囲気じゃないし……。 「別に、いいけど」 「ほんとですか!?」 隻眼の目をキラキラさせて私の手を引いた。 「俺、良い場所知ってるんです!」 「え、あ、そうなんだ」 「なまえ、がんばれよ!」 「慶次うっさい!」 その言葉を捨て台詞にして、伊達君に引っ張られるがままに教室を出た。 慶次は後で鉄拳制裁するとして、なーんか中学の時から聞いてた伊達君の人物像と違うんだよねー。 野球部の男子が伊達君のこと生意気とか言ってたし。 無口、俺様、自己中、やたら英語の発音が上手い、年上を敬わないってのが中学からの伊達君のイメージ。 同じ野球部の男子が言ってたんだから本当だと思ってた。 この中で当てはまってるのってやたら英語が上手いってとこだけだよ。 手を引いて目の前を歩く伊達君に、俺様なんて当てはまらない。 「ここです、先輩」 「わ、涼しー。いいね、ここ」 6月のジメジメして蒸し暑い気候が嘘のように、木陰の下は涼しい風が吹いていた。 学校にこんな場所あったんだ。 ちょっと感心。 そんなこと思いながら、伊達君と向かい合わせになって座った。 「先輩、今日は弁当なんですね」 「あぁ、うん。昨日はちょっと、気分で……」 昨日はお母さんが寝坊したから、作ってもらえなかったなんて言えないし……。 それより伊達君の弁当ってすごい豪華。 いいなぁ、こんな豪華な弁当作れるお母さんがいて。 幸せ者だね、伊達君は。 「いきなりですけどいいですか?」 卵焼きを食べながら伊達君のお弁当の中身を観察してると、伊達君が箸を置いた。 真剣な眼差しだったからまだ噛み足りないのに、卵焼きを飲み込んでしまった。 「え、なに?」 「あの、昨日の返事、決まりましたか」 「え!?」 本当にいきなりの事で、思わず飲み込んだ卵焼きが出てきそうになった。 どうしよう、ちょっと付き合ってみようかな。なんて思ってたけど、こんな表情の伊達君を見たらやっぱり、付き合えない。 そんな軽い気持ちで付き合えば確実に伊達君を傷つける。 さっきまで悩んでいた答えが、伊達君の表情を見て固まった。 「や、あの……ごめん」 「……俺、とは付き合えないんですか……?」 「……うん」 伊達君が傷ついたような顔をした。 そんな顔を私がさせいるんだと思うと目を思わず背けてしまう。 「なんで、ですか? ……俺の事が嫌いですか……?」 「ち、違う! あの、伊達君と話したことって、全然ないよね」 「はい……」 「だから伊達君のことあんまり知らないしさ。だから、好きとかよく分かんなくて。けど嫌いじゃないのは確かだよ?」 伊達君の声色が悲しそう。 弱々しい声。 ますます顔見れない。 「そんな半端な気持ちで付き合うなんて、伊達君も嫌でしょ?」 「いい」 「でしょ? ……ん? って……え!?」 予想外の言葉に思わず顔を上げて伊達君を見る。 「先輩は俺のこと嫌いじゃないんですよね?」 「え、あ……うん」 口調が強くなった……。 それに目も鋭くなったような……。 「なら、なまえ先輩を絶対俺に惚れさせます。だから付き合ってください」 「え!?」 「いいですよね、先輩?」 顔を近づけてくる伊達君は笑顔で、すごい自信ありそう。 確かに、伊達君が本気出したら惚れちゃいそうだけど……。 伊達君が好きじゃないけど付き合ってもいいって言うなら私も別にいいかなって思ったりして。 「そ、そんな無茶な」 付き合えないと告白を断った手前、素直に首を縦に振れない。 「それでも無理なんですか?」 「え、うん……まぁ」 「チッ……でも先輩には拒否権はないですから、今から俺の彼女です」 「な……?」 拒否権ないってなに!? そしてその眩しい笑顔はなに!? てか、今小さく舌打ちしたよね!? 「な、なんでそんなに強引に何でも決めるわけ!? 私の意志は!?」 「拒否権はないって言ったじゃないですか」 「めちゃくちゃだって! ぽんぽん何でも決められたら混乱するって!」 俺様と自己中って当てはまったよ! あと、年上を敬わないってのも! こんなの先輩に接する態度じゃない! 「俺は、俺は……」 そう言うと、下を向いた伊達君。 え!? なに、傷ついたの!? 私、なんか酷い事でも言ったっけ!? 何も言ってないよね!? もし誰かが居てたら挙動不審な私を見て笑われそうだけど、そんなこと構ってられない。 なんて思いながらあたふたしていると、伊達君が顔を上げた。 「俺は一刻でも早くあんたが欲しい」 ニヒルな笑いを含んで言う伊達君に顔が一気に熱をもった。 口調が違う……! それより、この私がそんなこと言われるなんて……! 私の反応を楽しんでいるのか喉を鳴らしながら伊達君が笑った。 「つーことで、俺の女でいいですよね?」 I WANT YOU (あ、やば……つい頷いてしまった……。ってことは彼女確定?) [戻る] ×
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