「ほんとに勝っちゃった……」 もう五年程連続で甲子園出場してるあの強豪校に本当に勝っちゃったよ。 最初はそりゃ二週間ほどサボってたツケなのか、結構失点したけど三回からは失点なしだった。 「まあ、政宗が来たことでチーム全体の士気が上がったしねー」 佐助君は単純な先輩達だねーなんて笑いながら携帯を取り出した。 後輩がそんなこと言って良いのかと思ったけど、当たってるから言わないでおいた。 「今頃インタビューでも受けてるのかな」 多分今年の注目ルーキーだろうし、甲子園に向けての意気込みはどうですか。なんて聞かれてるんだろうな。 お願いだからボクシングの試合前の選手みたいに調子に乗らないで欲しい。 高校生は謙虚が一番ウケいいんだから。 適当にみんなが努力してたから勝てましたとか無難なこと言っておけばいいんだよ。 「あの伊達の事だから、俺の愛する女のお陰で勝つことが出来たぜ! なんか言いそうだな」 「は!? 何言ってんの慶次!」 「いやー予想だって。予想」 「そんな不吉なこと言わないでよ!」 いくら政宗でも場所は弁えるよね? けど、慶次の予想が無きにしも非ずって感じられちゃうんだけど。 どうしよう、心配になってきた……。 なんて不安になりながら球場を出ると政宗が笑顔で立っていた。 「お、彼氏のご登場じゃん、なまえ先輩」 「わっ……」 「なまえ!!」 佐助君に背中を押されてよろけながら前に踏み出すと、笑顔の政宗君は人前なのに抱き付いてきた。 「ちょっ、政宗っ!? インタビューは!?」 「Ah? んな面倒くさいのはもう終わらせた」 「じゃ、じゃあ、監督の話とかは!?」 とにかく佐助君や慶次に見られるのは恥ずかしいから退いてもらおうと色々言った。 この子、人前ってことが分かってんの? 慶次の予想が的中しそうで怖いんだけど。 「……、終わった」 「何その間! 終わってないんでしょ!? 行ってきなよ!」 「Shit! 面倒くせぇ……」 良かった、離れてくれる。 胸を撫で下ろそうとした瞬間に感じた浮遊感。 「へっ!?」 「佐助! 監督が来たら適当に言っとけ!」 「んートイレで気張ってますって言っとく」 「ふざけんな! 殺すぞ!」 「冗談だってーちゃんと言っとくから」 ふわりと佐助君が笑った瞬間、景色が流れるように変わった。 「へぇぇえ!?」 「What's up honey?」 「ちょ、ちょっ、はやいぃぃい!」 「Ha! もう少しの我慢だ」 政宗は、不敵な笑みを浮かべてまたスピードを上げた。 なにこれ!? なんでお姫様抱っこされてんの!? 監督の話を聞きに行くんじゃなかったの!? 意味が分からず政宗のユニホームに抱きついた。 しばらくすると風を感じなくなって、政宗が立ち止まった事が分かった。 「なまえ、目開けろ」 政宗に言われて目を開けた。 「ここは?」 「球場の裏にあるただの公園だ」 「そうなんだ。で、何でこんな所に連れてきたの?」 「なまえと早く二人きりになりたかった」 「へ、へえ……」 だから人気のないこの公園に連れてきたんだ。 それより、よくそんな気障なことを真顔で言えるよね。 全く、こっちが赤面するっての。 「なまえ」 「なに?」 「Kiss me,please」 「へっ……!?」 「試合にも出た。甲子園出場も決定だ。文句は無しだ」 Are you OK? とまた不敵に笑った。 っ、約束は約束だから仕方がない。 数時間前の約束を結んだ自分に少し後悔しながら政宗に向き合った。 「目瞑って」 「OK」 目を閉じた政宗君の頬に手を添えて、唇を重ねた。 「満足……?」 「No」 唇をすぐ離して訊くと、政宗は短く切り捨てて私の後頭部を押さえた。 「んんっ、っふ……」 舌を絡め取られるような深いキスをされた。 こんなの、高校生がするようなキスじゃないよ。 意識が遠のきかけた頃、唇が離れた。 「なまえ……」 「な、に?」 息を整えていると、政宗の不安そうな声が聞こえた。 「これから、俺について来てくれるか?」 「まさむ、ね?」 「俺といたら、辛い事の方が多いかも知れねえ。それでも信じてついて来てくれるか?」 弱々しい声で私に抱きついてきた。 「当たり前。どんな事があっても政宗を信じてついて行くよ」 そう言って強く、逞しい背中に手を回した。 I BELIEVE YOU (二人を繋ぐ絆は永遠に) [戻る] ×
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