朝、いつもより早く起きた。 目覚めて久しぶりに数えてみる。 「ひーふーみー……」 指を折って考えると、ちょうど右手三本分だった。 もう、二週間以上……か。 これだけ話さないと、正直寂しいなぁ……。 けど、大嫌いなんて自分から言った手前、会いにいけない。 夏休み真っ盛りだから、会うためには学校に行かなきゃいけないし。 それに、政宗君のことは許せない。 大事なことなのに、黙っててさ。 許婚のこと聞いたとき、明らかにやばいって顔したし……。 だから、会いたくない。 けど、好きなのはかわりない。 会いたいと会いたくないがごちゃごちゃして、自分が何を望んでるのか分からない。 「さみしい……」 高校野球の予選も始まってるし……。 あの事件の後に予選が始まったから、一回も見に行けてないし。 ちゃんとテレビで結果は確認してるけど、なんでも政宗君は出てないらしい。 期待のエースのはずなのになんで出てないんだろう。 うちの野球部もそこそこ強い上に政宗君が入ったから、さらに力がついて政宗君無しでも決勝までいけたけど。 危ないときもあったらしい。 けど、当たる相手が良かったのか何とかぎりぎり勝ってここまで進んだけど、今日の相手は政宗君無しでは勝てないだろうな。 「なんで、出ないんだろう」 テレビの中でも良いから政宗君に会いたいのに……。 枕を抱き締めると、ピピピと機会音が私の携帯から発せられた。 発信元は、慶次。 「もしもし」 『あ、なまえ先輩? 俺様だよ、猿飛佐助!』 「佐助君? なんで慶次の携帯から?」 『どうでもいいから!! 落ち着いて聞いてね?』 「え?」 軽くあしらわれたよ。 ってか、なんでこの子こんなに焦ってんの? 『今日は毎回甲子園に出場してる強豪校と当たるって知ってるよね!?』 「うん」 『さっき電話したら政宗が、今日の試合も来ないって言うの!!』 「え!?」 今まで試合に出てないのは調子が悪かったんじゃなくて、来なかっただけなの!? しかも、エースなのに。 政宗君が出ないと勝てない試合でも来ないの? 『アンタ、政宗と喧嘩したんでしょ!? それから政宗ったらあーいうの生きる屍っていうの!? まぁ、そういう風になっちゃってさ!』 「え……」 『ほんと、なんにもやる気がなくなっちゃったんだよ!? どーしてくれんの!?』 「や、あの……」 『責任とって、今日の十時までに政宗を球場まで連れてきて!!』 「え、そんな……私、家知らない」 『なら、今からメールで教える!! 中学が一緒だったんだから、自転車でも行けるでしょ!?』 「え、あ……まぁ」 『絶対連れてきてね!?』 「けど、まさ……伊達君には……許婚がいるし」 それに私が会いに行ったところで、政宗君は来てくれないよ。 大嫌いなんて酷いこと言って、政宗君はすごく傷ついたはず。 それに私が会いにいけない。行きたくない。 政宗君も傷ついたかもしれないけど、私だって傷ついた。 政宗君は本気じゃなかったんだから。 『なに伊達君なんてよそよそしい呼び方なんかしてんの!? 政宗には許婚じゃなくて、アンタが必要なんだ!!』 「けど……」 『けどじゃない! 政宗のあのベタ惚れ様がアンタには嘘だと思うのか! それとも、政宗が本当に嫌いになったのか!?』 「っ……嫌いになってない……」 『だったら行けよ! 行ってついでに仲直りしてこい!!』 佐助君の怒鳴り声に、目が覚めた気がした。 そっか、私はまだ政宗君が許せないんじゃない。 ただ、許婚よりも私のほうを取って欲しかったんだ。 親が決めた許婚と結婚しない、なんてねじ伏せることは難しいってことは予想つく。 会社とかの問題が絡んでくるんだろう。 それでも、私のほうが良いっていう証拠が欲しかったんだ。 婚約解消としての形で。 それを待ってたんだ。 馬鹿みたい。待ってるだけじゃなんにも変わらないのに。 ましてや、大嫌いなんか言って叶うはずないのに。 仲直りしなきゃ。 そして、許婚の愛って子と立ち向かって正面から奪わないと。 こんな寂しい思いをもうしたくない。 「……行く」 『よし! 残り時間は二時間半!それまでに仲直りして連れてきてよ!』 「うん!」 メールする! という佐助君の言葉を聞いたと同時に携帯を切った。 顔洗って歯磨きして、タンスの一番上にあった服をきた。 もちろんスッピン。朝ごはんも食べないで、お母さんにも行き場所を伝えないで家を出た。 自転車に乗って、佐助君のメールを見ながら私は政宗君の家に向かうため、全力でペダルをこいだ。 政宗君と会えなくて寂しい日々を終わりにするために。 I MISS YOU (もう一度『政宗君』と呼んで、仲直りしたら『政宗』と呼ぼう) [戻る] ×
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