mine | ナノ





「なぁ、なまえ……」
「なに?」

慶次が世界の終わりみたいな顔して近付いてきた。

慶次がそんな顔するなんてよっぽどのことじゃん。 
あぁ、もしかして朝ごはん食べられなかったとか?


「あのさ、噂で聞いたんだけどよ」
「噂?」
「うん、伊達の事でさ……」
「政宗君?」


政宗君の噂なら結構聞くけど……。
僻んだ男とか振られて恨んでる女とかから結構な噂たてられてるし。。

あんまりよろしくない噂も吹き込まれたこともあったし。
けど、嘘ってのは政宗君に聞かなくても分かったから気にしない。



「伊達ってさ、結構金持ちなんだって?」
「あーそうじゃない?」

弁当とか、いっつも豪華だし。 
それにお金に困ってるように見えないし。
うん。良い育ちしてるよ、あの子は。


「それがどーしたの?」
「いや、伊達には許婚がいるって噂なんだけど……」
「いいなずけ?ありえないっしょ、そんなの」
「そうだと良いんだけど、金持ちだったらありえないこともないかなって」



まだ、不安そうに言う慶次。
なにその顔。なんかこっちまで不安になってくるじゃん。

いまどき許婚って財閥とか、超金持ちの家にしか存在しないんじゃないの?
政宗君の家って普通の家より少しだけ裕福なだけじゃないの?

 
本気でやめて欲しい。
あるわけないって思っていても、慶次を見てると不安が伝染る。


ちょ、一旦落ち着こう。
どうせまた僻んだり、恨んだりしてる人がデマ情報を流してるだけなんだから。





「なまえ!」


噂をすればなんとやら。
政宗君がやってきた。







++++


政宗side


「なまえ……?」


なまえを昼飯に誘いに来れば、慶次とかいう男と沈んでいた。


どうしたんだ?
なまえの顔が暗くなってるように見える。
アンタはsmileがお似合いなのにそんな顔すんな。


「政宗君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 

名前で呼んでくれるようになったなまえ。
名前で呼ばれるたび、舞い上がっていたはずなのに、今の雰囲気で名前を呼ばれても素直に喜べねぇ。



「行こう」

と言われ弁当を持たずに教室を出たなまえの後ろをついていくと、たどり着いたのは人気の少ない北階段。


「あのさ、政宗君……」
「Ah?」
「政宗君、噂で聞いたんだけど」
「噂?」


俺の悪い噂なら今まででも数え切れないほど聞いてるはずだ。
それを、そこまで不安になって聞くということはよっぽど悪い噂か?



「政宗君には許婚がいるって本当?」
「な……どこで、それを……」


てっきり、俺には女が十人いるとか、なまえとは遊びだとかだと思っていた。
まさかそんなところを突かれるとは……予想外にも程がある。



「その態度ってことは本当なんだ……」
「いや、それは……」



本当なのは本当だ。
否定は出来ないが……。


なまえの表情がどんどん曇っていく。



「なにそれ……許婚がいるのになんで私と付き合ったわけ? ただの遊び?」
「違う! それは……」
「違わないでしょ!? どうせ十八まで結婚は出来ないから、それまでの代わりだったんでしょ!」


ヒステリックに叫んだなまえ。
なまえがこんなに怒ったのは初めてで、どうしたらいいか分からない。


「許婚の子のことも考えなよ!! いくら政略結婚でも将来結婚するんだったら、その子を一番に思うのが当たり前でしょ!?」
「聞いてくれ、違うんだ!」
「何も聞くことなんてないよ!」


やばい、やばい。
頭の中で警報が鳴ってる。

くそ、話を聞いて欲しいのに、なまえは熱くなってこっちに耳を傾けようとしやがらねぇ。


「政宗君のこと……本気で好きになったのに……っ」


涙を流し始めたなまえ。
こんな状況だが、初めて見せてくれたなまえの涙に胸が高鳴った。


「政宗君は私のこと好きだって信じてたのに……本気じゃなかったなんて……」
「俺はアンタが好きだ」
「だったらなんで許婚がいるの!? どうせ、十八になったら終わりにするつもりだったんでしょ!?」
「違う! 俺は……俺は……」
「もういいよ!! 政宗……伊達君はそういう人だったんだ」


涙を溜めて俺に言い放った言葉は冷たい。 
伊達君なんて、そんな呼び方は止めてくれ。 
軽蔑するような目は止めてくれ。
 

「伊達君との将来のこと少しでも考えてた私が馬鹿だったよ」
「俺は愛なんかと籍いれるつもりはねぇ! それに俺だってなまえとの将来を……」
「いいって言ってんでしょ!? 言い訳なんかしないで」



なまえがどんどん離れていく気がしてならねぇ。
やめろ、俺から離れないでくれ……!


「愛って子とお幸せに」
「なまえ、まっ……!」


踵を返したなまえを止めようと肩に触れると、汚い物を払うようにして俺の手を叩いた。
そんな眼で見るな。 
お前も、俺を捨てるのか……!

お前だけは……俺から……!





「大嫌い」




冷たく言い放つと、そのまま振り向くことなく俺から離れていった。

目の前が真っ暗になった。



I HATE YOU
(頬に温かい雫を感じるのは一体いつぶりだろうか)
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