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19 部長の心理

三成side



「あはははー、ほら、石田ぶちょー笑顔笑顔ー!」
「き、さま……! 触るな! 離れろ!」



私の頬に触れて、無理矢理口角を上げようとするみょうじの腕を掴んで阻止する。

なんだ、こいつは!
酔ったら絡み癖でもあるのか!?



「もーほら、また眉間にしわ寄ってるー」
「誰のせいだ! いいから離れろ! 残滅するぞ!」
「石田部長、落ち着いて! みょうじさんも離れて!」
「やーあ! 石田部長を笑顔にするー!」



間に北河が入り、何とか私から離れたみょうじ。
名残惜しいのか、北河に無理矢理離されている今でも、私に向けて手を伸ばしている。



……なんだ、その寂しそうな顔は。
私から離れたくないのか?


そう思って居ると、いきなりみょうじが眉間に皺を寄せて頬を膨らませた。



「もー! 石田部長なんて大嫌いー!」
「……はあ?」



「ちょ、みょうじさん、何言ってるの!?」
「そ、そうよ、なまえそんなこと言っちゃだめでしょ!?」
「は、早く謝りなさい!」


みょうじの言葉に騒いでた周りの人間共に一瞬静寂が訪れた後、今度は焦り始めた。



「嫌いーだいっきらい! ……むぐっ、んーんー!!」
「みょうじさん、静かにしよう。あ、あの石田部長、この子、酔ってるだけなので今の発言、見逃してあげてくださいね」



俺が怒っているとでも思っているのか、みょうじの口を塞ぎ、必死で俺を宥めてくる。
周りも、みょうじの代わりに謝っている。



俺が、泥酔している奴の言葉を本気にするとでも思っているのか。



……だが、酔うと本音が出るとも言うしな。
今後のこいつの態度では、本気にするかもしれんがな。




「北河、そいつを離せ」
「え、しかし……」
「そいつを家まで送る」
「え!?」
「貴様の送別会だろう。こんな泥酔した奴がいたら楽しめんだろう。私の帰るついでだ、送っていく」



私もこんな場所にいても無意味だ。
早急に帰りたい。


それに私が間違えてこいつに酒を渡したせいでこのようなことになった。
私がつれて帰らねばならんだろう。

……非常に面倒くさいが、仕方あるまい。



「いいんですか?」
「言っているだろう。早急にその酔っ払いとこいつの荷物を渡せ」
「あ、はい。よろしくお願いします」



そう言って、田惑ったように北河は私に酔っ払いを引き渡した。
女が怯えたようにみょうじの鞄を持ってきたのを受け取った。


「っぷはあ! 死ぬかと思ったー!」
「帰るぞみょうじ」
「えー!まだ飲むのー!」
「そんな状態で何を飲む気だ馬鹿者」


まだ残ると駄々を捏ねるみょうじの腕を肩に背負い、腰に腕を回して出口に向かう。



「いやあ! まだ残るー!」
「耳元で騒ぐな!」



なんだ、こいつは。
素面の時と全然違うではないか。

くそ、私はうるさいのは嫌いだというのに。




やかましいこいつを時々叱り、何とか駐車場についた。



「ほら、乗れ」
「えーこれが石田ぶちょーの車ですかー?」
「当たり前だろう」



なぜ自分の車でないのに乗れと促すのだ。
……酒を飲むと、元々悪い頭がさらに悪くなるのか。



「あは、シルバーなんですねー。いかにも石田部長って感じー! あははは」
「何が面白い」
「別に面白くないけど笑えるー、あはは」
「ちっ……」



今のこいつに何を言っても無駄か。
助手席に放り込んで運転席に乗り込んだ。



「わーこの車、いい匂いするー」
「はあ?」
「この匂い、すきー」
「……何を言っている」
「えへへーこの匂いのする石田ぶちょーもすきー」
「っ……貴様、さっきは嫌いと言っていただろう」



シートに抱きつき匂いをかいで微笑んでるみょうじを横目で確認して車を発進させた。



「笑顔じゃない意地悪な石田ぶちょーは嫌いだけど、それ以外のぶちょーはすきですよー」
「う……うるさい。それより貴様のうちはどこだ」
「あっちー!」
「誰が方向を教えろといった。住所だ住所」
「ないしょー」
「ふざけるな。今すぐ投げ捨てるぞ」
「こわいよー。教えますよー」



頬を膨らませて住所を言った。
手間の掛かる奴だ。
面倒くさい。

本当に捨ててやろうか。と思って居るとうめき声が聞こえた。





「うー……」
「どうした」



まさか吐くとか抜かすんじゃないだろうな。
ふざけるな。私の新車を汚したらコンクリートに沈めてやる。





「佐助さんに会いたいよう……」
「は? 佐助?」



男の名前か?
もしかして、こいつの男なのか。

こんな女を捨てたような奴に男がいるというのか?



それにこいつらの同期ではみょうじは男に興味ない変わり者だと有名ではなかったか?



もしかして、兄の名か?


「えへへ、早く会って佐助さんにぎゅってしてもらいたいよー」




……いや、血の繋がった兄弟がそんな事するはずない。
それに、敬称など付けるはずがない。




「みょうじ」
「なんですかー?」
「佐助、というのはお前の男か」
「そーなんです。すっごく格好よくてー、意地悪だけど優しいんです!」



酒の力もあってか、頬を赤く染めながら幸せそうに笑ったみょうじ。


……気分が悪い。



「貴様、意地が悪い奴は嫌いではないのか」



意地の悪い私には嫌いだといっておいて、なぜ、佐助という男は良いのだ。
納得いかん。



「佐助さんはいいんですー。好きですからー」



言っちゃった! と言って照れたように手で顔を覆ったみょうじ。



「少し黙ってろ」
「え?」


……なぜ、自分がこのように怒っているのか分からん。
惚気がむかつくのだろうか。

よく分からんが、これ以上こいつの話を聞きたくないと思った。





車内が静寂に包まれていると、電子音がその空気をぶち壊した。




「あ、わたしだー。出ていいですかー?」
「勝手にしろ」



携帯を鞄から探して、取り出すと声を張り上げた。






「あー! 佐助さんだ!」




思わず、強めにアクセルを踏んでしまった。




まさかこのタイミングで、だと?



(暢気に嬉しそうに微笑むこいつが恨めしくなった)
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