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13 恋のキューピッド?


あれから三日経った。





「みょうじ」
「……なんでしょうか」
「定時だ。帰れ」
「え? まだ仕事が」
「生気のないような顔で仕事されてもミスが出るだけだ。帰れ」
「……はい」


睨みつけられて、私は仕方なく帰りの用意をした。
ああ、やっぱり石田部長にばれちゃったか。

まあ、みんなも気付いてたし当たり前だよね。


やっぱり休めばよかったのかな。



「……お疲れ、様です」



そう言って私は会社を出た。




ああ、今日は全然集中できなかったな。
頭の中を切り替えようって思っても、時間が経てばいつの間にか佐助さんのこと考えてるし。

最悪だ。
仕事中に泣きそうになるなんて。


駅までとぼとぼと歩いていると黒い車が目の前に止まった。




「おい、なまえか?」
「え? 元親先輩!?」
「おー後姿がどこかで見たことあるな、と思ってたんだよ」


送ってやるから乗れよ。と言った後、助手席のドアを開けてくれたので断れなくて車に乗った。



「今日仕事は……?」
「休みだ」
「そうなんですか。どこかお出かけしたんですか?」



高校時代ははスウェットとかジャージだったはずなのに、今日はなんだか気合入れてるような気がする。

……もしかして、デートとか?





「ハハッ、ちょっとな」



この照れくさそうな笑い方は、デートだ。
この顔に高校時代どれだけ泣かされてきたか。




「相変わらず、雑賀先輩とは仲がいいんですね」
「よくねーよ。相変わらずこき使われてる」
「その割には嬉しそうですね」
「ああ!? んなことねーよ! うんざりだ!」
「あはは、すみません」


耳赤いですよ。って言ってあげたかったけどどうせ怒鳴られるのは分かってるから黙っておこう。
……ほんと、仲いいなあ。
正式に付き合ってもう十年くらいになるんじゃない?

幼馴染らしいからから、知り合ってからはもう二十年近くは一緒に居るらしい。



なんで結婚しないのか不思議だ。





「ははっ……いいなぁ……」




思わず心の声が漏れた。
すると、元親先輩は私の方を向いた。


うわ、前向かなきゃ事故するって。



「大丈夫か?」
「へ? 何のことですか?」



何を急に。
私、顔色悪かったかな?



「猿飛、報道されてただろ?」
「っ……そ、そうですね」


ああ、そのことか。
元親先輩は私と佐助さんが付き合ってると思ってるからなあ。

心配してくれてるんだろう。




「気にすんなよ。報道なんて嘘ばっかだ」
「あはは、そうですよね」




元親先輩は優しいな。
佐助さんは浮気してないって言ってくれてるんだ。


けど、浮気も何も、付き合ってないからね。




「あの、元親先輩」
「なんだ?」
「私と佐助さん、付き合ってないんです」
「はあ!?」



また元親先輩は私の方を向いた。

だから前向いてないと危ないって。



「おま……嘘だろ?」
「本当です。この前は佐助さんが勝手にそう言っただけなんです」


だから、鶴姫って子と付き合ってようが付き合ってなかろうが私には関係ないんです。と元親先輩に笑いながら言った。



「じゃあ、お前は猿飛のこと好きじゃねえのか?」
「……好き。って気付いたのは報道されてからでした」
「なんだよ、それ」
「あはは、手遅れでした」





なんか、涙出てきた。
とろいし疎いんだな、私って。
何でもっと早く気付かなかったんだろう。


もっと早く気付いてれば良かったのに。



……まあ、気付くの早くても本気で相手にしてもらえなかっただろうけど。




「猿飛とは話したか?」
「してないです」



私から電話することなんてない。
ってか出来ない。

佐助さんの方は記者とかに質問攻めされたり、マネージャーさんに監視とかされてるんだろうな。





「話し合いしろよ」
「そんなの無理ですよ。話すことなんてないです」
「あんだろ。告白とか」
「はあ!? 彼女いるのに出来るわけ無いでしょうが!!」



何でそんな簡単に言えるかな!
告白ってのは少しでも可能性があるからするもんでしょ?


それを可能性ないのに告白するなんてただの馬鹿じゃん。




「いいからやってみろって」
「ふられるの分かってるのに出来ません!」
「やってみなきゃ分かんねーだろ!」
「分かります!」



ほんと、何も考えない人だな!
アンタは雑賀先輩と上手くいったからいいけど、私はもう100%無理って分かってるんだから。



何でこんな人好きになったんだろ、なんてと思っていると、携帯が鳴った。



「出ていーぞ」
「あ、はい。すみません」




携帯を開くと、『発信元 猿飛佐助』と文字が並んでいた。



「っ!?」
「誰からだ?」
「……さ、佐助さん」



うわ、タイミング悪すぎ。
ってか、何で私に電話が掛かってくるの。
私に話すことなんてないでしょ。




鳴り続ける携帯を見つめる。



すると、車が歩道に寄ってハザードを出した。




「元親先輩?」
「出ねぇんだったら、貸せ」



そのまま携帯を奪われた。



「あ、ちょっ……」

止める声も虚しく無視されて、元親先輩は携帯に出た。
やば、私が佐助さんのこと好きだってばらされるかもしれない。



「返し……むぐっ!?」



口を塞がれて声が出せなくなってしまった。
手をどけようとしても、男と女の力の差は歴然で、びくともしない。


絶対ばらされる!




「よォ、俺だ、元親。……少しなまえに相談されててな」



ああ、何話してるんだろう。
お願いだから、私に不利なことは言わないで。




「なまえが、テメェとは話したくないってよ。……ああ、かなり怒ってる。……んあ? それはどーだかな。自分で確かめろよ。ああ? 無理だ? なら諦めるんだな。なまえは俺に任せろ。じゃあな」




乱暴に電源ボタンを押してから、私の口を覆ってた手を退けてくれた。


「な、なんて言ってましたか?」
「さあな」
「何で教えてくれないんですか」
「自分で出なかったからだろ」
「そんな!」



元親さんは機嫌よさそうに、携帯を私に向かって放った。




(ああ、私がこれ以上傷付きませんように)
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