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11 このむかつきはなんなのか


今日は残業がなく、早めに帰れた。

……ああ、あの上司から早く解放されるだけでこんなにもストレスが解消されるなんてビックリだ。



麦茶を飲みながらザッピングしていると一つのチャンネルで指が止まった。




「あ、さると……じゃなくて佐助さんだ」


やばいやばい、今本人がいてたらキスされることになってた。
ちゃんと呼び方を憶えないと、私の貞操がどんどん危うくなっていく気がする。


なんて思いながらテレビに目を戻す。


これが同僚達の中で騒がれてるドラマなんだ。



「へー……いつもの佐助さんと違う」


テレビの中の佐助さんは真面目で、いつもの軽い感じとは全然違う。
そりゃ、演技してるんだし当たり前か。



『ナナコ! 待てって!』
『離して下さい!! 貴方の顔なんて見たくないです!!』
『聞けよ! アレは違う!』



うわー……佐助さんが焦ってる。
演技上手いね、佐助さんも女の人も。


女の人可愛いな。
女の人よりも、女の子って言う表現の方が合ってるかも。

おめめくりくりだし。
私が男だったら惚れてるだろうなあ……。



ってか、今までこのドラマ見たことなかったからアレの意味がわかんない。
先週何があったんだ?


この二人が別れるかも知れない状況ってことだけは分かるけど。



『貴方なんて、大嫌いです!』
『……ナナコ。本気で言ってんのか』
『あっ、当たり前です。ひっく、ふえ……貴方なんて……っ!』




そう言った女の子は力なく佐助さんの肩を何度も叩いた。



『っ、き、嫌いに、なりたいのに……っ! になりたいのにっ! なれ、ないっ……』


大粒の涙を流す女の子。
複雑な顔をして女の子を抱き締めた。


……なんだろう、むかむかする。
これはドラマなんだから。
なにむかついてんだろ。



『悪かった』


そう言うと女の子の頬に手を添えて上を向かせた。



『愛してる』



「な……」



何してんの、佐助さん。
なんでキスしてるわけ。

だ、誰にでもキスするような人だったわけ?




……って、何言ってんの私。
しょうがないじゃん。
仕事なんだし。
台本に書いてたんだから、キスしなきゃいけないじゃん。


けど、むかつく。
ああ、あの唇は何人とキスしたんだろう。



……私もたかがその『何人』の中の一人なんだろうな。


むかつく。佐助さんにとってはたくさんしたキスの中の一つかもしれないけど、私はファーストキスだったのに。




……芸能人ってそうじゃん。
好きな人じゃなくても、お金貰うためなんだから仕方なくキスとかしなきゃいけないじゃん。

だから、もうキスとかスキンシップとしか考えられなくなっちゃっただけなんだよ。



だから、私としたのもただのスキンシップで。
だから、私に気があるとか、そんなものは私のただの思い上がりで。
だから、この前の佐助さんが言ってた告白とかはただの冗談で。
だから、もう期待なんかしても時間の無駄でしかなくて。





……とりあえず、これから佐助さんの言う事は冗談ってことを踏まえて聞かなきゃ。



テレビの電源を消してリモコンを投げ捨て、寝るためにベッドへ潜り込んだ。



(小さな嫉妬の炎が燃えた)
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