scandal!! | ナノ


10 強要されました


「う、うわー高そうなお店……」
「んーまあ、一流だしね。さ、外にいても仕方ないし、入ろ?」
「は、はい」




手を引かれて私たちはお店の中に入った。
……また、手繋いでる。



「いらっしゃいやせー!! 予約のお名前を!」
「あー予約してない」
「え!? してないんですか!?」
「うん。だって、なまえちゃんに電話する五分前に思いついたし」


うわ……後先考えない人だ、この人。
どうすんの、こんなとこ絶対予約無しじゃ入れないよ。
だって、店の人すごい忙しそうにしてるし。きっと満席なんだろうな。



「猿飛さん、違うとこに行きましょうよ」
「大丈夫だって。あのさー俺様、若旦那の友達なんだけど」
「え?」


ここの若旦那と友達?
こんなすごいお店の若旦那と友達なんて。
猿飛佐助って意外と人望持ってたんだ。
自己中だから友達いないと思ってた。



「アニキのご友人っすか! なら予約は要りませんぜ。どうぞ!」



すぐさま中に案内してくれた。


「なまえちゃん?」
「え、あ、なんですか?」
「何でもないんだけど、なんかきょろきょろしてたからさ」
「う……すみません」


うわ、無意識のうちに貧乏癖が出ちゃった。
まあ、仕方ないよね。こんなにすごいところだし。

……私、さっきからすごいばっか言ってる気がする。




「こういうところ来るの初めて?」
「はい。私の家は貧乏なんでこんな立派なところは無縁で……」
「あは、またなまえちゃんの初めてもらちゃったー」
「は、はい!? なに言って……!」
「赤くなってかわいー」
「っ! うるさいです!」


この人は、こういう事を何の恥じらいもなく……!
店員さんに聞かれたらどうすんの。

絶対違う方に勘違いされる!




「この部屋ですぜ! ごゆっくりどうぞ!」
「あーもう注文しておく」
「はい! 何にしやすか!」
「じゃあ、若旦那にいつもの二つ猿飛が言ってたって言っといて。それだけで分かるからさ」
「了解しやした! では、ごゆっくり!」


元気よく店員さんは出て行った。


いつものって言うだけで分かってもらえるなんて常連さんなんだ。猿飛佐助って。
テレビとかに出てるからすごい人とは思ってたけど、ここまですごいとは……。

うーん。やっぱり住む世界が違うんだなあ。



カツラなど御宅田のパーツを外している猿飛佐助を見ながらそう思う。



こう見てると、周りの男より軽くて格好いい人としか認識できないよね。
ただのいい店知ってるいい男としか思えない。



「なーに?」
「え? い、いや、なにも……」
「俺様に見惚れた?」
「ち、違います! ただ、すごい人だなと思って」
「すごい人? 俺様が?」
「はい。だって、こんないいお店の常連なんですから」
「あれ、そこ? 芸能人だからじゃないの?」
「そりゃあ、それもすごいと思うし、住む世界も違うなあと思いますよ。けど今は、こんな立派なお店の常連って事の方がすごいです」


大体、猿飛佐助が芸能人だろうが別に関係ないし。
芸能界に興味なんて微塵もない。


私もこういう料亭とかレストランとか経営してる人と友達になりたい。
そしたら、割引してくれるかもしれないし。




「……なまえちゃん、ちゅーしていい?」
「え……って、はあ!? ななななに言ってるんですか!」


向かい合わせに居た猿飛佐助が私の隣にやってきた。



「いやー今のグッときた」
「何がです!?」
「俺様を一般人として見てくれてるからさ」
「はい!? さ、猿飛さんって、一般人じゃないんですか!?」


超能力者とかですか!? と焦って訊くと、猿飛佐助は噴いた。



「あははっ、なまえちゃん、面白すぎ……!」
「え、ええ? 何が面白いんですか?」
「ほんと、可愛い」
「なあっ!?」


いけしゃあしゃあと!
まあ、私が慣れれば良いんだけどね。
慣れないんだよちきしょー。
……なんか本気っぽい雰囲気とか醸し出してるし。

流石芸能人。
伊達に演技の練習とかしてないんだね。


落ち着け自分、と思って居ると外から声がした。


「猿飛、入るぜ!」
「んーどうぞー」


……この声、聞いたことある。



「久しぶりだな、猿飛!」
「久しぶりー元親」


つーか、この銀髪も見たことがある。



「テメーの女っつーのはこいつ……おおっ?」
「元親先輩、ですよね?」
「なまえか! 久しぶりだな!」
「はい! お久しぶりです!」



うわ、こんな所で再会なんてびっくりだよ。
元親先輩、変わってないな。
相変わらず少年みたいな笑顔。

……もう二十六なんだから少しくらい老けてても良いのに。



「え? なに、知り合い?」
「おうよ、高校時代の後輩でな。同じ水泳部だったんだよ」
「なまえちゃん水泳部だったの!?」
「…………泳げるようになりたくて」
「ぷはっ、思い出すぜ。始めの方よく溺れてたもんな」
「っ! 言わないで下さいよ!」



そんなこと猿飛佐助にばれたら絶対からかわれる。
今は泳げるんだから泳げなかった時代の事なんて掘り返さなくてもいいのに!



「い、今は泳げるんだからいいじゃないですか」
「泳げるようになったのは俺の優しい指導があったからだろ?」
「何回か沈められましたけど」
「……んなことした憶えはねえな」


……目逸らしたし。
絶対憶えてるよ。

そりゃ、プールの中で人の足引っ張ったりとか頭押さえつけたりしたんだし、忘れるはずないよね。
私が溺れた原因のうちの一つは元親先輩からのいじめだし。


ああ、なんて悲しい青春時代。




「そんなことは置いといてよ……」

うわ、置いとかれた。
絶対に分が悪くなったから話逸らしたんだ。


「お前等は付き合ってんのか?」
「へ!?」


話を逸らしてまで何を言うかと思えばそんなこと!?
私と猿飛佐助が付き合ってるなんてありえない。



「な、なにを馬……って、わっ!?」
「そーそー俺様たち付き合ってんの。超バカップルなの」
「は!? さ、猿飛さ……む"!?」
「いつもは佐助って言うんだけど先輩の元親に会って照れてるみたいでさー」



元親先輩からは猿飛佐助が肩を抱き寄せてるとしか見えてないんだろうな。
けど、口塞がれてるからね。
何も話せないようにされてるからね。



「そうなのか。良かったななまえ」



にっこりと、笑った元親先輩。
良くないんですけどね、今の状況。



「あは、なんだかなまえちゃん照れてるみたい」


照れて話せないんじゃなくて、口塞がれて話せないだけなんですけど。



「ははっ、なんかお似合いだなお前等。じゃあ、俺は戻るわ」
「んーじゃあね」


元親先輩が部屋を出て行った後私は解放された。


「な、何するんですか」
「別に。なまえちゃんが要らない事言わないようにしてただけでしょ」
「い、要らないことって! 大体、何で嘘つくんですか。付き合ってなんか居ないのに」
「……俺様と付き合うのは不服?」
「ふ、不服って言うか、す、好き同士でもないのに!」
「俺様はなまえちゃんの事好きだよ」


すき? スキ? 好き!?


「……はあ!? ななな、何言って……!」
「何って、告白?」
「っ!? じょ、冗談もいい加減にしてください! いい加減怒りますよ、猿飛さん!」
「……そういうの、むかつく」
「え、ちょっ……わっ!?」



肩を押されてそのまま畳に倒れ込んだ。
な、なに!? 何で猿飛佐助が馬乗りになってるわけ!?


「ちょ、さ、猿飛さ……! んんっ!?」


意味わかんない。
何で?
今日は私のファーストキスを奪ったお詫びにここ連れて来たんでしょ?

じゃあ、何でまたキスされてるわけ!?



「ぷ、はっ、何を……」
「佐助」
「え?」
「佐助って呼びなよ」
「な、なんでですか」
「ただ名前で呼んで欲しいから、じゃだめなの?」
「え、や……だめというか……」
「じゃあ、名前で呼ぶこと。これ決定事項ね」
「え!?」


にっこりと笑って言う猿飛佐助に悪寒が走った。
何で名前で呼んで欲しいわけ。
別に苗字でも変わらないじゃん。


不服そうに見ていたことに気付いたのか猿飛佐助は私の唇に人差し指を添えた。



「ん……?」
「これから『猿飛さん』って一回呼んだら、一回キスするからね」


それも、ちょー激しいの。と付け加えた猿飛佐助に血の気が引いた。
……これから、心の中で呼ぶ時も『佐助さん』にして、練習しよう。


少しでも呼び方に慣れてないと間違えそう。



「さ、もうすぐ料理来るし、座ろ」



佐助さんに腕を引かれて起き上がった。

するとタイミングよく料理が運ばれてきた。



(どうしよう、美味しそうなご飯なのに味がしない……)
[ 10/30 ]
[*prev] [→#]
[戻る]
×