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08 first or second?



御宅田の格好を止めた猿飛佐助の前に出来上がった料理を乗せた。


出来たよ。
やばい、この見た目は自分の中で最高傑作なんだけど。
少し色が薄いかなと思ったけど、一応レシピ通りに作ったし。
多分、大丈夫。



「美味しそうだね」
「そ、そうですか? 見た目はマシですけど、味の保障は……って、あ!!」
「ん? どうかした?」
「え、いや何でもないです」


やばい。
味見するの忘れてた。

レシピ通りに作ったら大丈夫だと思ってたから、味見という行為が頭から抜けてた。

どうしよう、美味いか不味いかわかんない。
自分の舌に絶対の自信を持ってるわけじゃないけど、ヤバイよねこれ。


「じゃあ、いただきます」
「え、あ! 待ってください!!」
「だーめ。もう俺様お腹と背中がくっつきそうだし」


確かに、私がもたもたしてたからもう九時前になっちゃったけど。
これは、食べさせちゃだめな気がする。


お皿を退けようと手を伸ばした時にはもう遅く、猿飛佐助は咀嚼していた。

うそ、行動が早すぎなんだけど。


「あ、あの不味いですよね。遠慮せずに吐き出しちゃってください」
「んー? 美味しいよ?」
「え? そんなはずが……」
「信じられないなら食べてみたら? ほら、あーん」
「え?」


猿飛佐助が蓮根を摘んだお箸を私に向けてきた。

「どうしたの? 早く食べなよ」
「えっと……」


このお箸って、猿飛佐助が使った奴だよね?
これに私が口つけたら、間接キスじゃ……。


「早く」



私の唇に触れそうなくらい蓮根を近づけてきた。

ああもう、こんなに近づけられたら間接キスとか言えなくなるじゃん。
ってか、この状況でそんなこと言ったら、ガキだって思われるかも。

よし、気にしたら負けだっ!


意気込んで、蓮根を食べた。


「美味しいでしょ?」




何これ。




……蓮根の味しかしない。
まあ、蓮根を食べてるんだろうから当たり前なんだけど。

あまりにも蓮根の味過ぎる。
あれだけ頑張って味付けしたのになんで? ただの茹でた蓮根みたいじゃん。
なんとなく醤油の味がするけど、集中して食べなきゃ分かんないよ。



「味、薄すぎました。もう一回やり直してきます」
「え、なんで? 美味しいじゃん」
「薄すぎですよ、これ」
「んー? 外食ばかりで濃い味に飽き飽きしてたからちょうど良いんだけどな」
「え? そ、そうなんですか?」
「うん。だからやり直す必要なんて無いよー」
「猿飛さんが良いなら……」


少しだけ浮かした腰を下ろして、私も箸を手に取った。



野菜の味しかない筑前煮を食べていると、猿飛佐助が私の方を向いた。




「何で俺様の行きたいところでいいと思ったの?」
「えっ、なんとなく、です」
「それ、さっきも言ってたけど違うよね?」


目が泳いでるよ、なんて言われた。
ああ、私ってこんなに嘘つくの下手だったっけ?
結構学生の時、友達とか騙してた方だと思うんだけど。


「えっと……」



少しでも猿飛佐助のストレスを取り除けたら、なんて思って……なんて言える訳無いじゃん。

自分如きの特に可愛くも無い平凡な女が超有名のストレスを取り除ける可能性なんて皆無だし。
こんなこと言っちゃったら、調子に乗るなって怒られるかもしれない。




「教えて? 笑わないからさ」
「いや、今度は笑えないです」
「え? なに、そんなに真剣な理由でもあったの?」
「多分、猿飛さん怒りますよ」
「どういうこと? 俺様、よく分かんないんだけど」
「分からない方がいいと思います」
「えー教えてよー」


拗ねたように口を尖らせて言った猿飛佐助。

……惑わされるな自分。
ただの人だ。ちょっと他の男より顔面の造りが良いだけだ。


別に格好良くなんて無い。



あまり猿飛佐助の方を見ないようにして、人参を口に入れた。


「教えてくれないとちゅーするよ?」
「ぐっ……げほっ」


口に入れたばかりの人参が喉の奥に入りそうになったのを必死で止めた。


落ち着け。
これも嘘なんだから。
どうせちゅーするって言えば私がうろたえて喋ると思ってんだ。


ここはなんとなくスルーするのが一番だ。



「どうぞ、するならして下さい」



適当に答えて人参を噛んだ。
うわ、すっごい人参。当たり前だけど。


人参を飲み込んだところで箸を置く音が聞こえた。





「じゃ、遠慮なく」
「え?」


意味が分からず、顔を上げると目の前には満面の笑みを浮かべた猿飛佐助。





「ん……!?」




急に押し付けられた唇に何も抵抗できず、私はただ目を見開いて、箸を落とした。




「あは、ごちそうさま」


笑みを貼り付けたまま猿飛佐助は座りなおして、箸を取った。



「え、え……?」


うそ、なんでキスされたの?

さっきのって冗談じゃなかったの?


ちょっと、まって。
混乱し過ぎて頭爆発しそう。



「な、んで……」
「なまえちゃんがして良いって言ったんだよ?」
「だって、本気じゃないと思って……」
「本気じゃないなんて一言も行ってないじゃん」



あんたが、いつも冗談ばっか言ってるからこっちは今回もそうだと思ってたのに!

飄々とご飯を食べる猿飛佐助に腹立ってきた。




「……最低です。ファーストキスだったのに」
「んー? ファーストキス?」
「この前言ったじゃないですか。キスした事ないって」



忘れたとは言わせない。
ちゃんと言ったし、キスした事ないって。
大体、あんたがキスしたかしてないかって聞いてきたんだし。



「……なまえちゃんって、可愛いね」
「は!? 何を突拍子もなく……」
「んー思ったことを言っただけだよ」
「そんなこと言って、紛らわそうとしても無駄ですからね」
「あはーバレた?」
「バレバレです!」



危ない危ない。もう少しで話が紛らわされるところだった。

猿飛佐助は話が逸らせなかった事が悔しかったのか、少し怪訝な顔してる。
ま、これで私もポンポン騙されるような人間じゃなかったってことが証明できて良かったよ。



「じゃあ、ファーストキスを奪ったお詫びに今度なんかご馳走するよ」
「……え、本当ですか?」
「うん。俺様、海鮮料理がすっごい美味しい所知ってるんだよね」
「私、刺身とか好きです」
「ほんと? じゃあ気に入るかもね」
「行きたいです!」
「りょーかい。今度行こっか」
「はい!!」


にこにこと笑う猿飛佐助に私も笑顔で答えた。




「連れて行ったら許してくれる?」
「満足できたら、ファーストキスの件は無かったことにしてあげても良いです」


ほんとは大事なキスをこういう形で許すのはダメなんだろうけどな。
まあ、満足できなかったら許さなかったら良いしね。


素直に楽しみにしておこう。
現金な女なんて言葉知らないし。


そう思って、箸を拾って蒟蒻を口に入れた。



(セカンドだよ。という声は聞こえずに)
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