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05 意外な電話


「昨日見た?」
「見た見た! ほんと佐助君格好いいー!!」
「だよねー」


見たってのは猿飛佐助のドラマ?
……昨日やってたんだ。




「見逃した……」


つーか、昨日やってること今初めて知った。
……まあ、私が見る義理なんてないんだけど。




猿飛佐助の家に泊まってから一週間経つけど、連絡も取ってないし。
まあ、連絡先も知らないから当たり前だし。
私がもう一度連絡取りたいって思うなんておこがましいよ。



から揚げを口に入れて、後ろにいる同僚たちの話に聞き耳を立てた。




「ヤマトに合う芸能人って佐助君しかいないよね」
「うん。ナナコを助ける時とか格好よすぎ」
「あーわかる! 私もああやって助けられたい!」



へー猿飛佐助の役ってヤマトって名前なんだ。
ナナコって言うのがヒロイン役?
ヒロインの子も可愛いんだろうなぁ。



顔がよく生まれると勉強できなくってもこうやってお金が稼げるんだから羨ましいよね。
私なんて学生時代は勉強の思い出しかないよ。
公立高校出て、大学出て、普通に就職なんて平凡だよねー。



それに比べてすごいよ、猿飛佐助は。
芸能界って言う荒波に身を投じるなんてさ。

まあ、しょうがないよね。顔がいいんだし。
今までモテまくって、いい事尽くしだったんだろうから苦労を味わう機会がないとね。




それに、芸能界ぐらいしか行く場所無かったんだろうな。
悪いけどあの人って賢そうにはあんまり見えないし。


まあ、人を騙すとか演技に関してはずば抜けてるだろうと思うけど。
私って結構注意深いのにあれだけ騙されるなんて……。


今思い出しても恥ずかしい。



なんて思って居ると、携帯の電子音が鳴った。


こんな時間に誰からだろ。
携帯を開いて誰からか見てみると、とんでもない人からだった。



携帯の画面に書かれていたのは猿飛佐助。


「は、い!?」



なんで? なんで猿飛佐助の番号が登録されてんの?
わたし、交換してないよね!?

じゃあ、何で……!?


訳がわからないまま食堂から出て電話に出た。




「も、もしもし……」
『もっしもーし。やっと出たねー』



無視されてるのかと思ったーなんて電話の向こうでけらけら笑ってる。
……この声と性格は本物だ……。




「あ、あの……なんで私の携帯に猿飛さんの電話番号が登録されてるんですか!」
『んーなまえちゃんが泥酔して寝てるときに登録しちゃったー』
「な……勝手に人の携帯見ないで下さい!!」
『見られちゃだめなものでも、登録してるの?』
「そ、そういうわけじゃ……」



プライバシーの侵害だ!
そうやって言いたかったけど、また揚げ足取られることは分かってるから言わなかった。


……もう二度と声を聞くことも会うことも無いと思ってたのに。



『まーいいや。今日はなまえちゃんを誘おうと思ってたんだー』
「どこにですか?」
『ディナーを一緒にどーですか?』
「は、ディナー!? 何でですか!?」
『んー今日は撮影早く終わるし、なまえちゃんも残業無いかなーなんて思ったからー』



電話越しであはーなんて笑ってる猿飛佐助。
相変わらず軽いというか、へらへらしてるというか……。



「何で私なんですか。もっと可愛い女の子を誘えばいいじゃないですか」
『えー俺様なまえちゃんより可愛い女の子の知り合いなんかいないよー』
「は!? な、なにを……」
『あはーときめいた?』
「っ!! 冗談は止めて下さい!!」




むかつくむかつく! 何で一瞬信じちゃうんだ、私は!
猿飛佐助が言うことはほとんど嘘じゃん!


しかも芸能人なんだからこんなこと毎日言ってるんだろうし。
大体、芸能人の言うことで本音なんて一つも無いよ、絶対。


だから信じるな、自分!



『……――ないんだけどなー』
「え? なにか言いました?」
『ううん。何でもないよー』


心の中で自分を戒めてたから全然聞いてなかった。

何でもないって言われたらなんか、気になるけどまあいいか。
そんな重要な事でもなさそうだし。




『じゃあ七時位に来て欲しいんだけどー』
「え? ちょ、行くなんて一言も……」
『何で? 断る必要なんて無いじゃん』
「そ、そうですけど……」



何で一回しか会っていないような私を誘うわけ?
普通、もっと仲のいい子を誘えばいいのに。



『なまえちゃんは、俺様と一緒に行きたくないの……?』
「え、あ……や……」


そんな悲しそうな声で言わなくても……。
なんか、こっちが悪いことしてるみたいじゃん。



『……なまえちゃん』


……ああ、もう、そんな声色で言われちゃ断れない。




「……わかりました。行きますよ」
『ほんと? じゃあ七時に俺様のマンションの前で待ってて』
「いいですけど、そんな堂々としていいんですか?」
『あー俺様は御宅田で行くからー』
「そうですか」
『じゃ、俺様撮影早く終わらせるためにもう行くね』
「あ、はい」



じゃーねー。とまた軽い声が聞こえてきて私は電話を切った。
仕事忙しいんだなあ。


ふと、携帯の時計が目に入るともう一時を過ぎていた。



「あ、やばっ……!」


私、まだ報告書書けてない……!!
それに、プレゼンに使う資料もホッチキスで留めてない!

やばい、部長に怒られる!!


まず、食堂に行って片付けないと!


食堂に向かうために振り向くと、背筋が凍った。




「い、しだ部長……」
「貴様、一時前に戻れと言ったはずだ」
「す、すみません……! 今すぐ戻ります!!」
「報告書は出来たのか」
「……すみません」
「プレゼンの資料は」
「……すみません」



怖いよ怖いよー。
何でいつも石田部長は私に目をつけるの。

「さっさとやれ」
「は、はいっ!!」


そう言われて食堂に素早く向かった。



つーか報告書は期限まであと三日あるじゃん。
それに資料もあと二日あるのに!

何で私ばっかりこうやって言われなきゃいけないの!?
いじめだ! 嫌がらせだ!


そうやって、石田部長に向かって直接言ってやりたいけど、あんな鋭い目の人にそんなこと言ったら視線だけで殺される……!





想像しただけでやばい……!
早く戻らないと!!


食べかけの昼ごはんを片付けて、走ってオフィスに戻った。



(再び逢瀬)
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