旦那の岡惚れ | ナノ




21 近づきたくて




「Hey,幸村」
「何か?」


卵焼きを口に入れようとした時、政宗殿に話しかけられた。



「お前に好きな奴がいるってprincessにばれたんだろ?」
「え、ええ、まあ……」
「そん時になんて言われた?」
「『両想いになれたらいいね』と言ってくださいましたが」



それが何か? と訊けば政宗殿は箸を置いて腕を組んだ。
なんだ? 困ったような、複雑そうな顔をされているがどうかしたのだろうか。



「……お前、脈なしなんじゃねぇのか?」
「え? 何がでござるか?」
「唐突に何言ってんだい。なんでそんなこと言えるんだ?」



慶次殿も不思議そうに政宗殿を見た。


……脈無しとは、どういう意味だ?
姫が俺を好きになる可能性がないということなのか?




ひ、姫が俺みたいな半人前を好きになってくださるなどありえぬ……!
そんなことは言われなくとも十分分かっておる。



……しかし、この胸を抉られたような感覚はなんなのだ。




「『両想いになれたらいいね』だろ? 完全に他人事だろーが」
「あー俺様もそう思った」
「だろ? ほんの少しでも気があるなら、んなこと言わねーよ」
「普通は、嫉妬するか悲しむよね」
「Yes.それを応援したという事は、恋愛対象として見られてねえんだよ」



良くて仲のいい後輩としか思われてねえだろうな。と政宗殿に指差された。



「ぐっ……!」




いや、姫にちゃんと自分をことを憶えて下さっていることに歓喜せねばならぬのだ。
なのになんだ、この悲しみにも似た感情は。


なぜ嬉しくないのだ。
姫に『仲のいい後輩』と認識していただいているのだぞ?
嬉しいではないか。

以前ならば舞い上がっていたに違いない。



くそ、なぜか悔しい。




「これだったら成実の方が彼氏になる確率は高ぇな」
「なっ!? 何を言って……!」



伊達成実殿が姫の恋人になる確率が高い!?
そ、そのようなこと、断じて認めん!
あの軽そうな男と姫が!?

考えただけでも、冷汗が吹き出る!




もしあの二人が結婚をしたなら……政宗殿と姫が親戚になってしまうのか!?





「み、認めん……認めることなど出来ぬ……!」


「ちょっと政宗やめてよ。旦那すごいショック受けてんじゃん」
「Ah? 俺は事実を言ったまでだ」




『真田君、私ね、なりちゃんと付き合うことになったんだー』
『なりちゃん言うなっていつも言ってんだろ!』
『えへへ、いいじゃん。それとも成実、って呼んで欲しい?』
『う、うっせー』
『赤くなってかわいー。なりちゃん大好きー!』
『ちっ、俺も好きだ、なまえ』



も、もし、二人がそのような関係になったら……。





「うわああああああっ!! 俺は認めぬぅぅうう!」




居ても立ってもいられなくなり、俺は立ち上がった。
こんな思考を巡らせてはいかん!

くそ、忘れろ!

……よし、忘れるためにグランド三十周だ!!




「Wait」


走り出した途端、政宗殿に足首を掴まれた。
勿論、そんな事が起こるとは微塵も思っていなかった俺は顔面を芝生に強打した。





「ふべっ! ぬぐぐぐっ……痛いでござる……!」
「旦那大丈夫!?」
「うわー今のは痛そうだな……」
「ちょっと、政宗! 芝生だったから良かったものの、コンクリートだったらどうするのさ!」

「Ahn? テンパって一人称まで変わってるこいつの頭を冷やしてやったんだろうが」
「冷やすって……強打して逆に熱くなったんじゃねぇか?」
「わ、顔真っ赤だよ幸村」
「顔が熱いでござる……」




少し混乱していただけなのにこのような仕打ちは酷いではないか……!
一歩間違えれば骨が折れていたかも知れぬ。


佐助から貰った保冷剤を顔に当てながら政宗殿を睨んだ。
しかし当の本人は全くの無視で話を進めた。



「成実と幸村の決定的違いは、積極性だ」
「積極性?」
「そうか? どっちかっつーと成実はなまえ先輩と同じクラスで、幸村は学年が違うってのが大きくないかい?」
「Yes.確かに、同じクラスと学年が違うというところも大きな違いだ。だがな、んなもんは逃げの理由にしかならねえ」




政宗殿に指摘されてぐうの音もでなくなった。


年の差を理由にするのは、逃げなのか……!
政宗殿がそう仰られるとなんだか説得力がありすぎる。


佐助が、こういうことに関しては百戦錬磨のつわものだからねー。と笑った。





「幸村」
「な、何でござろう……」
「princessに自分から話しかけたことあるか?」
「ぐっ……そ、某とて、何度かは……」
「五回にも満たねえだろ」
「うっ……」


思わず押し黙ると政宗殿はあからさまに溜息をついた。

仕方あるまい……。
姫が視界に入るだけで心臓が暴れだしてしまうのだ。
声も満足に出せぬ上、いつも震えてしまう。


俺とて、姫と自然に話したい。
しかしできぬのだ!




「そこで、提案がある」
「提案?」
「princessとdateすればいい」
「で、デート!?」
「何言ってんの政宗。ろくに姫さんと話せないのにデートなんて出来るはず無いでしょーが」



そ、そうだ。
デートをするのも勿論無理だが、まず、誘うことすら出来ぬ!

もし、嫌な顔して断られたらどうするのだ!
それがきっかけで嫌われたらどうするのだ!

俺はもう一生立ち直れないぞ!




「最後まで話を聞け、馬鹿野郎」
「んだよ、他にも提案があんのか?」



元親殿がデザートの苺を口に入れながらそう尋ねられた。
……見た目と会わないものを食されるのだな。



「俺にも幸村がprincessをdateに誘えるとは思ってねえ。だが、慶次がいるだろうが」
「え? 俺かい?」
「こいつは幸いにもprincessと同じ代議委員だ。こいつが代議委員でどこか行こうとか言って誘えばいい」
「へーそれで、人数あわせだとか言って旦那を入れるの?」
「That's right! 確か代議委員は男が少なかっただろ?」
「そういや、四人しかいなかったはず」
「男が少ないのは慶次が心細いっつーことで、俺達もついていく」



そう政宗殿が言った途端、佐助たちが、おお! と感嘆の声をあげた。

さすが百戦錬磨のつわものだ。
よく、このような作戦が思いつくものだ。



「ま、誘うのはこれで完璧だ」
「そ……そうでござるな。誠に感謝いたしまする!」
「Ha! 当然だ。だが、当日はテメーの手腕で決まる」
「う……」
「ここまで考えてやったんだ。何も収穫無しで帰ったらぶっ殺すからな」
「……必死で頑張りまする」



折角、チャンスを下さるのだ。
少しでも姫に近づけるようにならねば……!


伊達成実殿には負けらいられぬ!



「善は急げだから、来週の日曜はどうか訊いてみるよ!」
「おーそれだったらprincessも帰国してるしな。いいんじゃねえか?」
「よーし! 幸村のために一肌脱がしてもらうよ!」
「感謝致す、慶次殿!!」




(もう『仲良い後輩』のポジションだけじゃ物足りない)
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