旦那の岡惚れ | ナノ




16 だって男の子だもの




今日のこの球技大会を優勝するため、俺は早めにアップを始めた。
リフティングやヘディング等をして俺の試合まで待つ。



佐助はその様子をしゃがんで眺めている。




「旦那、俺様たちの試合まで時間あるし、姫さん観に行く?」
「なっ! ひ、姫は今試合していらっしゃるのか!?」


佐助の言葉に思わず、ヘディングを止めた。
ボールは重力に逆らわず落ちてきて、俺の頭に当たった後グラウンドに落ちて転がった。



「うん。丁度今してるところじゃない?」
「なぜもっと早くに言わぬのだ!!」
「練習するためにあえて観に行かなかったんじゃなかったの?」
「知らなんだのだ! くそ、姫はどこで試合を……!」
「体育館でしょ。姫さんバレー選んだらしいし……って、ちょ、旦那!」


佐助がそう言ったと同時に俺は体育館に向けて走り出した。

姫が、体育館で試合をなされているとは……!
早く行かねば!


グラウンドから全速力で駆け抜け、体育館の中に入った。




「はいはい、行くよー!」
「さあ、こーい!」



「ぐっ……!」


思わず一度体育館から出た。


「あ、やっぱ出てきた」
「さ、佐助っ!!」
「体育館入ったら、女の子いっぱいいたでしょ」
「う、うむ……」
「バレーは女子ばっか選んでるからねー」


体育館に入れば女子ばかりが目に入って、思わず眼球が飛び出るかと思った。
あまりの出来事に姫がどこに居られるか確認できなんだ。


……やはり、女子は目に毒だ。


「さ、中はいるよ」
「はっ!? は、入るのか!?」
「姫さん見るんでしょ?」
「し、しかし、女子が……!」
「大丈夫だって。奥のコートではバスケやってるし。男子もいっぱいいるよ」


バスケコートに行くまで目瞑ってたら良いよ。と言われ、手を引かれた。
靴を放り投げるように脱いで、体育館に入った。


目を瞑って佐助に引かれるまま歩いた。


「ちょっ、きついってー!」
「わーごめーん!」
「きゃー!」


女子の高い声が耳に入ってくる。
く、なぜ真剣勝負であるのにこのように軽い雰囲気なのだ。



「旦那、着いたから目開けてもいいよ」
「そ、そうか……」

ゆっくりと目を開けると、やはり女子がたくさんいらっしゃった。
目眩がしたが、倒れなかったのは少し離れていたからであろう。

バスケコートがあって誠に良かった。



「ほら、姫さんあそこに居るよ」
「っ……!」


佐助の指差す方向を見ると、姫が一生懸命ボールを追いかけていらっしゃった。

汗をあのように流すほど頑張っていらっしゃるとは……。
ああ、頬を流れる汗がとても綺麗だ。

汗が太陽の光でキラキラと光っていてまるで真珠やダイヤモンドのようだ。



「旦那、うっとりしない」
「う……しかし、あのように美しければ仕方ないではないか……」
「そんなに見つめてるとみんなにバレるよ」



姫さんのこと好きってそんなに知られたい? と佐助に言われて、押し黙る。

視線だけ姫から離さないで俯いていると姫が背を向けられた。

「……む?」



なんだ、姫の背に赤い紐のような何かが透けているような……。

シャツにしては短すぎる。
横一線にそれが引かれているように見えるが、一体なんだ?



「佐助」
「なに?」
「姫の背中に透けている赤い紐はなんだ?」
「……紐、ね。まあ、あれだけ汗掻いてたら透けるか」
「知っているのか?」
「旦那は知らなくていいよ」
「……うん? なぜだ?」



俺がそう聞くと、佐助は苦笑いでごまかした。
なんだ、何か隠しておるが、なぜ俺に言わぬのだ。


首を傾げていると、肩を叩かれた。



「Hey,それ、俺が教えてやるよ」
「ま、政宗殿……」
「うわ、どこから湧いて出たの」


心底嫌そ言うな顔をした佐助に政宗殿は鼻で笑って、俺はbasketballを選択したからな。と言った
なれば、ここにいらっしゃるのも頷ける。



「あの透けてる紐はな……」
「ちょっと、要らない事言わないでよ」
「Ahn? 知りてぇよな、幸村?」
「う、うむ……」


佐助が要らぬ事、というのだから多分要らぬ事なのだろう。
しかし、聞きたい。


溜息を吐いた佐助を横目に政宗殿の方へ向いた。


「あの紐はな、brassiereって言ってな、女の胸を支えるための物だ」
「なっ……!? むむむむむ、むっ、ねっ!?」
「Yes.女は、胸が膨らんでるだろ?」

あの揺れてるprincessの胸もbrassiereで支えられてんだ。と、姫を指差した。


「っ、なななな、何をおっしゃいます、かっ!?」
「Han? テメェが教えて欲しいっつったんだろうが」


あ、あの赤い紐ようなもので姫の胸もさ、支えられて……!
俺の好きな赤い色の紐で……。


だ、だ、めだ。想像してしまうと鼻血が出そうだ。




「旦那、鼻血大丈夫?」
「っ、な、なんとか……」


鼻を手で覆っていると、ピーっと試合終了の音が聞こえてきた。

姫の試合が終わったのか。
くそ、政宗殿のせいで姫の試合を見学できなんだではないか。


「勝った勝った!」
「やったねー!」

悔やんでいると、姫が友人と飛んで喜ばれていた。


「なっ!?」
「おーおー揺れてんなー」


も、もう我慢できぬ……!

「さ、さすけ……おれはもう……」
「はいはい、体育館の外に出て気を静めようね」
「Ha! 忍耐力が足らねぇな」
「気絶しなかっただけでも成長だよ」



俺を馬鹿にした政宗殿に背を向けて俺は体育館を出ようともう一度佐助に手を引いてもらった。勿論俺は目を瞑っている。




……今夜は眠れぬかも知れぬ。




そう思って居ると、佐助が少し強く俺の腕を握った。



「佐助?」


どうかしたのか、と聞けば気まずそうに小声で答えた。



「姫さんが、こっちに向かってる」
「はあっ!?」


思わず目を見開いてしまった。
な、なぜ、姫がこちらに!?


「多分、こっちに水筒あるから取りに来たんだと思うよ」
「そ、そうか」


なんだ、俺のためにこちらに向かって来て下さった訳ではないのか。


少し肩を落としてしまった。



……何を思っているのだ、俺は。
なぜ、落胆している?

どんな理由であれ、姫が俺に近付いてくださるのだ。嬉しい事ではないか。


前は、それだけでも舞い上がっていたというのに、どうしたのだ。どんどん貪欲になっている気がする。
自分の心情の変化が理解できぬ。



「あ、真田君」
「っ!?」


混乱していると同時に、姫からのお声がかかった。
姫のほうに顔を向けると汗を拭いていらっしゃった。


「あ、う……っ!」


姫が、近い……!

だめだ、政宗殿にあのような話を聞いたせいか、視線がそこにしか行かぬ!
見てはいけないと分かっていても視線がそこと地面をを行ったり来たりとする。

赤が、映えていらっしゃる……!



「真田君はこれから試合?」
「っ……え、あっ……はいっ!」
「そっかー頑張ってね」
「は、はい!」


し、視線が逸らせぬ……!
どうすれば良い! せっかく、姫が俺を励ましてくださるというのに、赤い所にしか目が……!

必死で目を泳がすが、結局最後にはそこへと辿り着いてしまう。
冷汗すら流れてきた。



「真田君? どこ見てんの?」
「へっ!?」


急いで顔を上げると姫が怪訝な顔をされていた。

っ!? ば、バレてしまったのか!?



……姫に嫌われてしまう!!




「なにかある?」
「え?」
「さっきからきょろきょろしてない?」


姫が首を傾げたところで黙っていた佐助が口を開いた。


「旦那、もう試合始まるよ」
「え?」
「早く行かないと。 じゃあ、俺様達は行くんで」
「なんだー試合の事気にしてたんだ。」
「え、っと……は、い……」
「そっかー引き止めてごめんね」
「い、いえっ!」
「行くよ、旦那」


佐助に手を引かれて俺達は外に出た。


姫に、嘘を吐いてしまった……。
きょろきょろしていたのは試合のことではないのに。
ああ、犯してはいけない罪を犯してしまった……!



「旦那、あんなあからさまに見ちゃだめでしょうが」
「う……仕方ないではないか」
「まあ、気になるのは分からないこともないけどさ」
「そ、そうだろう。俺も必死で逸らそうとしたのだが、無理だったのだ!」


あの宝石のように光る汗も、あの赤い紐も、太陽のような笑顔も、小鳥のような愛らしい声も、俺に逸らす事などできるわけが無い! と佐助の肩を掴んで叫ぶように言った。


女神のような姫から目を逸らす事など万死に値する!



「はいはい。分かったから落ち着こう」
「あ、ああ……」
「姫さんのアレ、忘れなよ」
「……で、できれば、な」


あの赤い紐は網膜に焼き付いてしまった。
俺は、忘れる事が出来るのだろうか。


忘れなければ俺が大変な思いをすると分かっていても、簡単に忘れる事などできぬ。
少々、いや大分刺激が強すぎた。



(あの赤い紐はある意味目に毒)
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