夢うつつ | ナノ






「ただいま」

まだ帰ってきてないかなと思ったけど、一応言ってみた。
すると、窓の外から笑顔の幸村が入ってきた。

『なまえ殿!』
「帰ってきてたんだ。意外と早かったね」
『うむ!』


ああやばい。
心臓が暴れてる。
好きって認めたからか、幸村と話すのって無駄に緊張する……!

顔赤くないよね?
赤かったらどうしよう。


『なまえ殿? どうなされた?』
「へ!? もしかして、顔赤い!?」
『いや、顔は普通だが難しい顔をしておられるぞ?』
「えっと、あはは。何でもないよ!」
『ん? ならば良いのだが……』


怪しがられてるよ。
幸村の眉間にしわ寄ってるし。



「あ、そうだ! ねえどこ行ってたの?」

話を変えるために気になってたことを聞いてみた。
すると、幸村が余計に難しい顔になった。


『そ、その……』


え、なに?
言いたくなかった?
タブーなこと口走っちゃった、私?

うわ、最悪じゃん。


「あはは、言いたくなかったらいいよ」
『いや、違うのだ! なまえ殿にも話さねばならぬことなのだ』
「え、そーなの?」


なんなんだろ。そんな深刻なこと?
幸村の顔がどんどん暗くなっていくんだけど。



『……某は、本体に戻れぬのだ』
「は?」



え、意味わかんないんだけど。
幸村が本体に戻れない……?

なんで? まだ信頼しきってないから?
それだったら今から頑張れば良いことじゃん。
そんな深刻なことじゃないよね?


『魂と肉体が離れた時点で元に戻ることなど出来ぬことなのだ』
「なに言ってんの? お互いに信頼し合えばできるんでしょ?」
『……それは、嘘なのだ』
「はあ? 嘘?」


幸村、私に嘘ついてたの?
そう言えば、幸村は俯いてすまぬ……と謝った。

待って待って、頭がついていかない。
そんな初めの方が嘘なら……。

「ちょ、どこまでが本当でどこまでが嘘なの?」
『っ……全てが嘘でござる』
「ぜんぶ……?」


ないないない。
そんな、殺生な。
全部嘘だったら、今まですごした時間はなんだった訳?


「幸村、今日はエイプリルフールじゃないよ?」

夏の真っ盛りの八月だし。
そういえば、幸村は困ったようだけどどこか苦しそうな表情と見せた。


『やはり、信じられぬか……』
「信じられないんじゃなくて、嘘なんだから信じる必要ないでしょ?」
『なまえ殿……』


幸村には私を騙せないよ。なんて笑って言った。
幸村みたいに顔に感情が出る子なんてあんまり居ないし。


『仕方あるまい。真実を話すでござる』
「ちょ、いつまで続けてんの?」
『某は……』


まだ嘘の猿芝居を続けようとする幸村に思わずツッコミを入れた。
待って、そんなずっと続けるても私は信じないけど?

もしかして、信じたって言うまで続けるわけ?


うわー幸村ならありそう……。


ならここは、私が折れて信じたって行ったほうがいいのかな。
うん、そうしよう。
そうしないといつまでも終わらないよ。


「わかった! やっぱり信じたよ、今!」
『……なまえ殿は信じておらぬ』
「え?」
『嘘を申すのは止めてくだされ』
「はあ?」


嘘付いてるのはそっちじゃん。
なんで私が怒られなきゃいけないの。

「……なにそれ……」
『聞いてくだされ。某は……』


何で、そんなに必死なわけ?
そんなに私を騙したいわけ?


意味わかんない。
キャパオーバーしそうなんだけど。

幸村は話すことは本当なのか嘘なのかわからない。

本当に、幸村が言ってたように幸村は本体に戻れないとしたら……?
私が今まで幸村と過ごしてきた意味は?

じゃあ私は何のために幸村と一緒にいてたの?


考え込むと急に頭が締め付けられるような感覚に陥った。


「いっ……!!」

頭が、痛いっ……。
いつもの痛さの何倍にも感じられた。


「っ、はっ……あっ……」
『なまえ殿!?』



呼吸が上手く出来なくて、苦しくて苦しくて思わずしゃがみこむ。

今までこんなこと無かったのに……。
頭は痛くても、呼吸が出来なくなるなんてなかった。
胸が苦しい。



『なまえ殿! どうなされた!?』
「うっ……はっぁ……っきむ、らっ……!」


話したいのに、話せなくて幸村に手を伸ばした。
感じる霊気に、少しだけ安心したけど、痛さや苦しさは一向に良くならない。


『気を強く持たれよ!! 今、母上殿を呼んでまいる!!』

そう言って、幸村は出て行った。
だめ、幸村は人と話せないじゃん……。



「だ、め……っ、はぁ、くっ、あ……」



だめ、苦しい、痛い。

もう無理……。



「ゆ、き……っ……」



目の前が真っ黒になった。



(脳裏に映った愛しい人)
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